田中 信行
田中 信行
漆芸家
金沢美術工芸大学教授
国際漆展・石川は、国内における唯一の漆による国際的な展覧会として1989年に第1回目が開催されて以来今回で12回目の開催となる。おおよそ30年間継続されてきたことに改めて驚かされる。展覧会の維持継承に携わってきた関係者の方々に、漆に携わる者の一人として敬意を表すると共に心から感謝したい。
この展覧会は第1回の開催当初から、所属する会派を越えて漆の新しい試みをチャレンジできる場としての役割を担い、国内外から数多くの漆作品が出品されてきた。私も若かりし頃、朱漆の質感を生かした壁面作品を出品し、当時の審査員である建築家の芦原義信先生に評価していただき、制作する上で大変励みになった。当時の審査委員としては他に、現在の審査委員長である大西長利氏、工業デザイナーの栄久庵憲司氏、グラフィックデザイナーの粟津潔氏、韓国中央大学校名誉教授の白泰元氏など様々なジャンル、多角的な視点で審査が行われ、従来とは異なる漆の見方、価値をともなった作品を見出し、漆による新しい展覧会を作ろうとする関係者の熱気のようなものを感じたことを覚えている。
そのような歴史ある展覧会に通底する精神をふまえると、今回の審査の結果はアート、デザイン両部門合わせて若干の物足りなさを感じた。この展覧会のあり方と目指すべき方向性や役割について、今いちど、議論をする必要性を感じる。全体の印象として審査講評会の際にも述べたが、大賞を受賞した作品に代表されるように材料が本来持っている素の表情を生かした作品が多く感じられた。漆に求めるものとして、‘自然ʼがあり、作ることを通して人間と自然との関係をそれぞれが見つめ直していることを示唆しているように思う。
最後に、この展覧会が、今後も地域の文化財産でありアジア固有の文化財産である漆芸の継承と発展に貢献しつつ、時代を開く創造的な漆作品を生み出す場として、今後益々発展していくことを願ってやまない。