大西 長利

大西長利

大西 長利

漆芸家
東京藝術大学名誉教授

この国際展が漆文化の魅力を世界のアーティスト達に伝え、理解を深め、更に新しい芸術発展に寄与することを念願し1989年に第一回展を開催したのが31年前。当時、日本はめざましい経済発展途上にあり、環境、文化、経済など諸問題もグローバルな視点から考える時代を迎えつつあった。日本の誇る漆文化の更なる発展(輪島漆器最盛期)をどこか不安な気持ちを抱きながらも夢見ていた。この時、一般の日本人の多くがどれほどの理解と見識を漆文化に対して持っていたか…漠然たるものではなかったか。日本をはじめ東アジアで生を受けた人類の原初文明、文化、宗教の成立の根源に漆文化が最も深く関わってきたのだ。

この国際漆展は単に漆を使って技術表現を競うだけではない。漆樹は自然界、つまり大地、その環境、空気、地質、水質、太陽光など様々なものが関係しながら自律生育し、その樹液もそれぞれに性質が異なる。用いる側が使い分けて生かす。結果、作品に微妙な趣が現れ、そこが作品の個性となる。

漆の塗れない個体素材は地球上にはない。何にでも塗れる。これは偉大なことだ。漆器又は造形において素地は重要な要素で人体に例えれば骨であり筋肉である。塗りは、衣服であり化粧である。これらは時代の好みにより様々な変化を生み出す。民族特有の伝統文化に育まれた感性と作家の個性が融合し、その時代の特徴となるところが面白い。これが国際漆展・石川の主眼とするところである。

 

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