川上 元美
川上 元美
(公財)日本デザイン振興会会長
㈲川上デザインルーム代表
国立工芸館が石川県金沢市に移転し新しく開館する今年、第12回を迎えるこの国際漆展・石川2020に選ばれた80点の作品から各賞を選出する本審査に、先回に続き参加させて頂きました。
漆は太古から馴染みの深い魅力溢れる素材。日本と漆文化の交流は古来より盛んであるアジア圏を初め国際的に漆の再興を目指した催しが増えている昨今ですが、特異な状況下からか今回は残念ながら海外からの作品が量も質も芳しくなく、賞がなかったことは残念です。今後に勢いが盛り返すことを期待します。
漆の中心的産地であるところから、約半数が石川県下の作家の多岐にわたる作品、それぞれ力作が集まりました。カテゴリーはアートとデザインに分類された審査ですが、本来その境界領域は明快でなく、解釈により変更された作品もありました。
わが国文化の中で絵画、彫刻、生活什器や建築は混一であり、それぞれが自立したものでも純粋性の度合いを問うものでもなく、より環境形成の視点に立って人々の生活を豊かなものにする芸術であり道具、調度品でした。
「暮らしの中の漆」から近年、作者自身のエステティカとエティカを新しい素材や技術と共に表現する漆アーティストの誕生など、新しい漆の可能性の模索が広がってきた今日ですが、今回印象的であったことは、かつての産地や作風の閉鎖性から近年の教育の成果でもあろう、若い世代間の相互交流の姿でした。新しい素材による乾漆造型の取り組みなど造形表現を切り開いたもの、漆の原点を見つめ直したものと、概念にとらわれず漆による未来への豊かな生活空間創造への可能性を垣間見させて頂きました。