山村 慎哉

山村 慎哉

山村 慎哉

漆芸家
金沢美術工芸大学教授

美術と工芸に境はなくなったと言われる時代ですが、少なくとも美術と工芸の表現が同じであるならばあえて分野や素材を分けて展示する必要はありません。美術は芸術的な表現を主眼とし、アーティストの感情や思想を伝えることが目的です。具体的な実用性よりも、芸術としての作家のメッセージが重視されます。一方、工芸は実用性を重視しながらも、芸術的な要素を持つ応用美術と言われてきました。日常生活に役立つものを作りながら、素材の美しさや技術の高さを追求していく工芸ですが、実は“応用”ではなく“純粋ではない美術”というように見る側も作る側も思ってきた歴史があります。応用美術は芸術の技術や素材を応用することで、日常の生活に美しさや彩りをもたらし、人々の暮らしを豊かにする役割を果たします。にもかかわらず純粋に美術的な表現を追求する作り手の多くは自らの仕事を工芸とは言わずに造形やアートと言いながら工芸の展覧会やコンペに出品してきました。何か不思議な工芸を取り巻く世界ではあります。しかし素材と技術に特化したもの作りを純粋と言い切ることを証明してくれた文化が日本にはありました。ものを造りだす喜びは創造的なプロセスや努力を通じて生み出された成果を体験し、他と共感することによって感じられます。西洋の個人主義に対し、日本の工芸は自然との調和を大切にする共同主義的な要素が見られ、個よりも他の本質を尊重する精神に基づいています。

今回の漆展の審査においてもこのことを大切に、美しい素材と美しい技術の共感と感動の作品を選ばせていただきました。漆の新しい広がりを考える国際的な展覧会として、第13回の国際漆展・石川が開催され、世界中から数多くの素晴らしい作品が集っています。今後も漆の魅力がさらに広がり、新たな表現が生まれることを期待しております。
 

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