講評会
審査員特別賞受賞作品(7点)について(4/4)
山村慎哉 ───── 偶然ですが、これも先にコメントした奨励賞の大下さんと同じ山中の山崎夢舟さんの作品「乾漆皿『華麗』」です。夢舟さんは大ベテランで私もよく知っていますし、作品も海外にどんどん行くような作家です。私は先ほど、作り手として大切なことの一つは人の手に渡ることだという話をしましたが、もう一つ大切なことは物が残っていくことです。つながって時代時代に残っていく物がとても大切ではないかと思います。
では、どういう物が残っていくのかと考えた時に、やはり一つは、もちろん作家の強い思いがあるとは思いますけれども、漆は技術をしっかり持っていること、それから時間をどれだけ掛けて作ったかということもやはり重要ではないかと思います。そういうものが分かると人に伝わりますし、大事にされて将来的には残っていきます。いろいろな形で残るとは思います。個人のところで本当に細々と、でも何か魅力があって捨て切れないとか、そういうことで残っていく物もあると思いますし、美術館に入って残っていく物もあるとは思いますが、そこはとても重要なことです。そういう意味で私は今回、いろいろな作品が出品されましたけれども、一つの判断材料としてその辺をしっかり見させて頂きました。
その中でもこの夢舟さんの作品は、やはり残るべき物になるだろうと思いました。それで、個人の賞ではありますけれども、付けさせて頂きました。本当はもっとちゃんとした賞に入ってよかったのではないかと個人的には思いますけれども、こういう形になりました。
大西 ───── それでは、志甫雅人賞をお願いします。
志甫 ───── これもやはり石川県の山中漆器産地にある、株式会社匠頭漆工さんの「mebuki椀〈金〉」です。写真では分かりにくいと思うのですが、節の割れ目に少し加飾等を施すことによって、従来商品としてはねていた木地を有効に活用していこうというものです。写真で見えているでんでんむしのようなところがいわゆる金継ぎのように節に加飾を施してあるところなのですが、そういった価値を付けて商品としていて、デザイン部門の中の商品企画力賞のようなことになるかと思います。
ご存じのように、山中漆器産地は木地挽きで有名で、木という自然素材を使う以上、節が当然あります。節に関しては、木地師の人にとっては刃物が欠けたり、挽きにくかったり、それから塗師屋にとっても節のところから割れが入っていたり、どちらかというと安全性を取るとこれまではねていたような素地です。ところが、そこを逆手に取って、節が非常に厄介なものという考え方を一回止めて、システム的に使えるものにしようということで、木地屋は挽きにくいのだろうけど挽いて、塗師は砥の粉などで目止めをして、拭き漆をかけて、蒔絵師が金継ぎなどで加飾していくというシステムを、この会社は構築しています。
本来、山中の木地はケヤキや、ハンサといわれるミズメザクラや、トチノキがよく使われ、ヒノキが多いというわけではないのですが、節の多いヒノキ材を使っています。節がある厄介さを逆に、これは言葉の綾のような感じになるのですが、新しい芽が出て成長するのが節だということで、吉祥なものといいますか、おめでたいものととらまえ直して、セールストークとして誕生日や人生の節目のいわゆるギフトにどうでしょうかということをアピールされています。出品されているのは、ご覧のように3寸5分(11cmぐらい)の子ども椀ですが、今度の展覧会では10客ほど展示されることになると思います。