大西 長利
大西 長利
漆芸家
東京藝術大学名誉教授
国際漆展・石川2023に寄せて
審査員として第一回目から携り34年、社会の変化の中で「国際漆展・石川」のあり方について感じていることを述べたいと思います。
本展発足当時、漆文化を持たない国をどう扱うかが議題になった。漆はなくとも塗文化があれば良い事にするか、間口を広げ漆に拘らない「漆・塗り」として呼びかけたらどうかと。日本人は塗ると言えばピンと来るが、漆以外の塗り素材は地球上に無限と言っていい程ある。塗りという人間的行為には深いものが秘められている。それが民族の誇りとなる訳で、アフリカ大陸をよく見てみるとその可能性の大きさが分かる。各々の文化形成の基となる精神性に関する事であり、表現には多様性が生まれる。ピカソ、ブラックなど近代芸術にも多大な影響を及ぼした。
また今回は、近年参加しているロシアからの出品がゼロであった。国際情勢を反映して誠に残念だ。ロシアには東ローマ時代から発展したビザンチン、キリスト教文化が広く深く定着し、教会祭壇装飾のイコンという塗り文化が東ヨーロッパ全域に広まり今日まで受け継がれている。塗りというものはそれぞれの文化の成り立ちに深く影響している。その中には深い芸術性と精神性が薫り高く含まれている。「塗り」という技術を活かした現代に生きる文化継承作品が世界各地から寄られることがいかに喜ばしい事か。「国際漆展・石川」の趣旨が大きな意味を持ってくるのではないか。そういう希望が実現できる様な取り組みを具体的に広げ、働きかけることを考えねばならない。ロシアからの作品は伝統文化の中に息づく民族性を感じさせてくれる情趣がある。次回展への出品を期待したい。