川上 元美

川上 元美

川上 元美

㈲川上デザインルーム代表

いま世界はパンデミックからの復興を目指し、本来の生活リズムを取り戻そうとする一方で、戦争や景気後退のリスク、気候変動や水質、大気汚染、森林破壊などの社会問題が深刻化しています。

そのような中、第13回を迎える国際漆展・石川を無事に迎えることができたことは大変喜ばしく、関係者の並々ならぬご努力の結果であり、持続可能な社会を繫ぎ止めるためにも、漆はその永遠性を象徴するように見えました。

今回も素晴らしい作品を数多く拝見しました。時代とともに変化し拡大する工芸、そしてデザインとアートの重なり代が大きくなり、若者達のこれからの創造に向かう情熱の息吹がひしひしと感じられます。

伝統工芸の真髄であり、その先に新たな存在の可能性を秘めた完成度の高い「乾漆蒔絵箱 夜梅」、工芸デザインの熟練した手技と感性と新しい生活提案の「七々子塗盛器『朱玄』」、そしてガラスと合体した精緻な漆の表現の「たゆたうI」と今回の上位賞3作品、それぞれ相譲らぬ美しくもそれぞれ充溢した可能性を秘めた秀作が競い合いました。奨励賞に選ばれた「変わり塗り万年筆」は自分が是非欲しいと思ったもの。翌日の講評日に出席されていて、胴体の造りに関して少し注文をつけたのですが、そのとき持参されていたご本人習作の超絶技法の蒔絵の見本の数々に審査員皆絶句。将来、大器に化けそうな若者に期待をかけること多大。

川上元美賞には少々迷いましたが、森林残材の利活用としてのものづくりで、拾った小枝や破片を削り、黒呂色漆や溜塗に仕上げた「森のこどもたち -封書開きナイフ- 」を選びました。循環型、持続型社会に向かっての、微細ではあっても好感の持てる行為です。
漆の用途が様々な広がりを魅せるこれからに期待します。

 

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