山村 真一
山村 真一
デザインコンサルタント
今年度2023における国際漆展・石川の応募作品数は世界から169点(海外応募54点)もの応募があった。前回の2020年度の応募点数216に比べれば相当少ない応募点数であるが、つい数週間前のコロナ禍中に於いては世界中で物流が途絶えあらゆる分野のモノ不足で世界中が大混乱し、まだその影響が続く中での、世界から54点もの応募は驚くべきことだと思う。
今回アート部門の大賞受賞となった「乾漆蒔絵箱 夜梅」は梅の花をかたどった柔らかく優しい外形の上部がゆったり窪み、その窪みの中には優しく蒔絵が施されている様は、今激しい情報化社会の中でいらだつ人々の心に対してひと時の潤いを与えてくれるような優しい作品である。まさしく一億年前(縄文前期)ともいわれる漆の歴史から現代人に贈られる優しいメッセージを感じさせ、ゆったりとしたたたずまいに心が打たれる作品といえるだろう。
デザイン部門の金賞に選ばれた、「七々子塗盛器『朱玄』」は長さ1メートルに及ぶ堂々とした朱塗りの盛器であり、上部の蓋を外せば台部はいくつかの箱ものになっていて内部は多様な器となり「飾りと納」を持つ新しい演出ができる漆盛器といえよう。
またアート部門の金賞に輝いた作品「たゆたうⅠ」はガラスと貝が組み込まれたまるで生き物のようなフォルムに独特の蒔絵が施され、そのガラスの鈍く光る透過光を通して見える優しい蒔絵のハーモニーは絶妙といえよう。そのほか銀賞の「翠雨」「Tipo」等、素晴らしい受賞があり今回は女性作家の活躍の目覚ましい「国際漆展・石川2023」であった。