志甫 雅人
志甫 雅人
(公財)石川県デザインセンター チーフディレクター
「漆」が暮らしをどのように彩り、豊かにできるのか。また「塗る」あるいは「加飾する」といった行為によって、どのような新しい造形表現ができるのか。本審査会にはそのような提案作品が国内外から集まり、16の賞を決定した。
私が今回、印象的に感じた作品について、紙幅の許す範囲で触れたい。藤田和さんの金賞作品は、ガラスと漆との組み合わせによるもので、透明感と不透明感との対比が美しい、光のオブジェとして際立っていた。能條玲衣さんの銀賞作品は、リアルとバーチャルとが交錯し、漆というメディアによって、アニメキャラクターのようなイメージ像を結んでいた。奨励賞の吉田まゆさんの作品は、漆ならではの湿度を含んださわやかで美しいグリーンの彩漆を基調とした蓋物で、蓋を開けると一変して豊潤で精緻な世界が出現する。同じく奨励賞の広沢有子さんの万年筆は、変わり塗による秀逸で普遍的な一品と言えよう。同じく奨励賞のスペインのミレイア・エストパ・サンチョさんの作品は、多様な加飾技法や変わり塗がポップで楽しく、軽やかなリズム感が伝わってくる。早川美菜子さんと早川朋宏さんの審査員特別賞の作品は、普段使いのランチボックスの提案で、もっと漆器を身近に感じて楽しく使ってほしいという作り手のきもちが強く感じられた。
さて、アート、工芸、デザインといった分野が重なりレイアを成す今、分野にとらわれず、作品づくりに向き合う作り手のさらなる活躍を期待したい。