講評会

質疑応答(2/2)

質問者3  ───── 先生方のお話がとても楽しくて参考になりました。これからの漆を資源として、木の再生やプラスチックとの合わせなどいろいろあると思うのですが、今は3Dプリンターがあります。そこに対して漆をどう絡めていったらいいのかというご意見がありましたらお聞きしたいです。
志甫  ───── 答えになるかどうか分かりませんが、3Dプリンターというものもあれば、普通に彫刻マシンというものもあると思うのです。いわゆる彫刻マシン的なNCルータであれば、ある程度の量産のものを作っていく、あるいはケミカルウッドなどを使って木を代替するようなものを削っていくという考え方もあるでしょうし、3Dプリンターではどちらかというと実際に手で作れないようなものにチャレンジできたりするでしょう。現にあるデザイン事務所では3Dプリンターを活用して陶磁器の鋳込み型を作ったりしています。ですから、そういう造形性の上で3Dプリンターは有効でしょうし、NCや3Dプリンター以外の技術もあると思いますが、ケース・バイ・ケースで考えていかれるのだろうと私は感じています。
質問者3  ───── 漆の新しい広がりということで、そういう方向にも広がっていくのかなと考えました。
志甫  ───── そういうものを使い込んで、アート作品にチャレンジしてもいいと私は思いますし、商品でも結構だと思います。是非、そういうものでチャレンジ頂ければありがたいと思います。
大西  ───── 長い間、皆さんお疲れ様でした。予定しておりました時間を少しオーバーしておりますが、これで閉めさせて頂きたいと思います。
この展覧会はずっと続いていく予定ですが、こうした漆の国際公募展というのは世界でここだけですから、非常に大事な展覧会なのです。でも、皆さん展覧会に直接関係していない限り、それほど大事だとはなかなか思いませんよね。私たち企画運営している者にとっては一つの誇りであり、世界に向かってこれを人類の非常に大切な文化、優しい心を秘めた文化として語り掛けていきたいのです。今のところアート部門、デザイン部門などと分けて募集していますけれども、アートとは何か、デザインとは何かというのは非常に曖昧なのです。アートとは何かというのは、非常に難しいことです。漠然と我々はアートと言って、何でもアートになっています。
先生方の心を込めたコメントがありましたよね。心を込めて、長い時間を掛けていきますよね。そういう作品が漆なのです。だから、お化粧も丁寧に丁寧に塗り込むでしょう。ただペタッと塗るだけではないですよね。安物はそういうふうにだんだんなっていくのです。時間は非常に貴重ですから、今の世の中は時間を掛けてやっていられないわけです。安く、早く、たくさんという文化ですよね。その文化を漆の文化と比べた場合に全然違います。漆は真反対なのです。慌ててやってはいけません。ゆっくりゆっくり自然のペースで、植物が成長するように、一雨降れば少し伸びは早くなるという感じですよね。
漆を塗って乾かす時に、早く乾かすことばかり考えているから混ぜ物が多くなっているのです。本当のピュアな漆は非常に少ないのです。これは非常に大事なことなのです。漆は漆屋で買えばみんな同じだと思うでしょうけど、中身は全然違うのです。だから、作家は漆の木を育てるのです。私はそうしています。私の工房の周りは全部漆です。その漆を頂いているのです。いつでも取れるわけではありません。季節に合わせて頂くのです。それをゆっくりゆっくりと黒めていくわけです。太陽のエネルギーを当てて、水分を少しずつ蒸発させていきます。ご存じの方もいると思いますが、ゆっくりゆっくりです。
だから、漆はかんかん照りでは駄目で、半分日陰がいいのです。葉の茂った枝が漆に半分ぐらいかかると、そこに漆をこっちからこっちに移動するのです。ちょっと傾斜させて、ゆっくりゆっくり流れていきます。これを繰り返さなければいけないのです。漆はこんなに面倒くさいのです。でも、面倒くさいというのは価値観の問題です。今ではそれを面倒くさいと言うのです。いけませんね。我々はそういう文化は嫌なのですよね。だから、本当に時間や空間が命と一体となってそこで喜びが味わえるのです。刻々と変化していく漆の姿、太陽の光の変化、あるいはその時、雲がすっと流れてきて、雲がかかる時の影が大事なのですね。その影が漆に影響してくるのです。漆とはそういうものなのです。そういう漆を育て、それを掻き取り、加工していく文化は最高ではないですか。
そういうわけで、作家として既に活動されている方もいらっしゃると思いますが、更にこれから作家としてやってみたいと思う人がいましたら、どうぞ声を掛けてください。「こういう作品を作りたい」と言えば、「では、こういうところでこういう勉強をしなさい」「こういう人について教わったら非常にいいですよ」というアドバイスをします。
この展覧会は10月28日にオープニングセレモニーを行いますので、会期中に、是非、お越しください。先生方もお集まりだと思いますが、私も参加しますので、そこでまた再会できたらうれしいですね。漆を愛する友達同士で会いましょう。
それでは、今日は勝手なことをかなり言っていますが、いい言葉もたくさんありました。それをメモしておいて大切にして頂きたいと思います。今日はこれで終わりますが、先生方、どうも長い間ご苦労様でした。いい言葉を頂きまして、みんな喜んでいたと思います。今日はありがとうございました。

閉会

藤原  ───── 皆さん、どうもありがとうございました。審査員の先生方には本来今回の審査を振り返ってのコメント、新しい世代への期待、思いなどについて一言ずつ頂きたかったのですが、時間がなくなってしまい、本当に恐縮でございます。お許しください。
それでは、以上をもちまして「国際漆展・石川2020」の審査結果発表並びに講評会を終了します。審査員の皆様には長時間にわたり作品の講評や貴重なご意見を賜りまして誠にありがとうございます。会場の皆様、最後に審査員を務めて頂いた7名の先生方に、今一度、盛大な拍手をお願いいたします。どうもありがとうございました。

本審査風景

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