講評会

奨励賞受賞作品(4点)について(1/2)

2019 Flower No.82 「闇咲く」

2019 Flower No.82 「闇咲く」
2019 Flower No.82 “Darkness”
W107 × D20 × H69
2019
藤野 征一郎
FUJINO, Seiichiro (Japan)

大西  ───── どうもありがとうございます。それでは、次に参りましょう。奨励賞に移ります。藤野征一郎さんの「闇咲く」です。オブジェのような作品ですね。田中先生にお願いします。
田中  ───── 奨励賞でしたが、この作品も最後まで上位の賞を競った作品でした。作者の藤野さんは50代になろうかという、作家として一番脂が乗ってきている年代です。多数の展覧会等で受賞歴もあって、経験が非常に豊富で、本当に脂が乗っているなという時期かと思います。しかし一方で、あるスタイルを確立していくとどうしてもマンネリ化していってしまうということは、誰もがものづくりの中であると思うのです。
この作品がなぜ皆さんの評価を得たかというと、過去にも藤野さんは石川の展覧会に出品されていますので、審査の先生方は結構頭に入っているのです。そういう中で私も含めて、これは本人の中では近年にない意欲的な作品だと、作品の中に秘めた力を感じました。元々、藤野さんは木彫をベースに、独自の形態と塗り、それから藤野さんならではの木彫の微妙なテクスチャー(木目)や木の表情を生かしながら、なおかついろいろな下地や変わり塗りの技法を駆使し、独特の質感を見せるわけです。それが本当に多彩で、ある意味ではたくさんしゃべり過ぎかなと思うぐらいに駆使するわけですけれども、そういう中にあってこれは本当に伸びやかな造形であり、私が近年の藤野さんの仕事を見ていて、これは本当に意欲作だと感じました。そういったことが、審査員の皆さんの票につながったと思います。本当に力作で、非常に素晴らしい作品だったと思います。

大王椰子葉鞘の大皿(2点セット)
Big Plate / Roystonea Regia
W85 × D59 × H12.5
2020
原田 城二
HARADA, Joji (Japan)

大西  ───── それでは、次に参りましょう。同じく奨励賞、原田城二さんの「大王椰子葉鞘の大皿」です。山田節子さん、お願いします。
山田  ───── 原田さんは沖縄に住んでいる方で、私もこの方の仕事に今年1月、初めて出会いました。元々は本州で仕事をしていたのですが、沖縄やアジアの素朴な塗り方に憧れて沖縄に入りました。ところが、沖縄に入ってみると戦争の傷跡はそのままで、この沖縄の森を切るというのはあまりに気の毒だという思いで、どうしようかと歩いているうちに、大王椰子(ダイオウヤシ)に出会いました。大王椰子は短いものでも15〜20mというのが普通で、40mぐらいになる南方系の街路樹です。その葉っぱは長いもので7mぐらいになるのですが、それが道に落ちているのです。こういうもので何かできないだろうかと思ったのが最初のきっかけだそうです。
油分を持っているのでバクテリアにその油分を食べてもらおうということで、自分の庭を水池のようにして泥の中で油分を取った後、それを乾燥させて裏側に和紙と麻布を張って漆で仕上げています。これだけではなくて彼は、小さなギャラリーでの展覧会だったのですけれども、沖縄にある自然の葉っぱをたくさん使いながら、葉皿や銘々皿のようなものから大きなものまで作品を作り、これからの時代の素材だなと引き付けられるような思いで私は初めてお話を伺いました。
「物を作るのは自然を傷めつけてしまうことなので、命を削っているような気がして申し訳なかったのだけど、これを始めたら何か気持ちが開けていって、これからいろいろなことができそうだ」と言うのです。これも85cmぐらいあって長いのですけれども、「こんなものをテーブルに3枚載せて、いろいろな料理を並べたり、お菓子を並べたりして、ゆったりとみんなで楽しめるようなテーブルができてもいいのではないか。片付ける時も軽くて簡単で、立てておいても大丈夫だし、それから小さな葉皿のようなものがあればそれに取って、自然と共に生きたかつての古代人のような暮らしの現代がもう一度戻ってくるのではないか」と言うので、「是非ここに応募しませんか」と誘いをお掛けしたら、昨日審査に入ってみると作品が来ていました。
そうしたら他の先生方の賛同も得られて、奨励賞を頂けるということになりました。多分彼は、沖縄の自然を頂戴して自分の漆の仕事を今後も続けていき、より良きものを作っていってくださるのではないかと思います。
私は、コロナの年に非常に相応しい一つの作品ではないかと思います。私たちが見落としているものでも十分に漆の素地になるものが世の中にはまだまだたくさんあるのかもしれません。自然と共に生きる人間の未来像の一つの示し方であったと思い、他の先生方のご賛同も得て奨励賞に入ったということで、「こんなものでいいのかな」とおっしゃった彼に自信を与えて、今後こういうジャンルにおいても新たな道が開けていけるのではないかと思いながら、今回の審査会に参加させて頂けてよかったという思いでいます。

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