講評会

金賞受賞作品(2点)について(2/2)

大西  ───── ご苦労様でした。また後ほど、いろいろ質疑があると思います。
次は山田節子さんに、金賞を受けられた白川明美さんの作品「七々子塗盛器『陽光』」についてお願いします。
山田  ───── 私はこちらにいらっしゃる先生方と比べると、いわゆるつなぎ手、生活者として漆が今後どういう社会性を持っていけるのかという視点を主体として作品を見ながら、技術的にも確かなものをと思って今回も審査に参加しました。その中で、伝統ある漆文化に対して現代の暮らしに似合うものはどういうものなのか、未来に対してどうあるべきかという視点も大切です。ちょうど今回は、コロナ禍という自然からの大変な叱咤を受けました。私どもが自然をおろそかにし、本当にルネッサンス以後、人間の生活文化が最高であるということで、いわゆる工業化社会に突入して、簡単で便利に生きていこうという方向にみんなが走った。そうした経済効率の中で得るべきものを失っていたのではないかと思うのです。
私は銀座にある百貨店で、社員ではないのですが、お客様を50年間リサーチしながら、皆様のお仕事をつなぐようなことも一つの大きな仕事としてやってきたのですが、6月1日まで2カ月休んだ後、何が一番売れたかというと家具だったのです。皆さん百貨店であまり家具を買わなくなっていたのですが、仕事に追われてただただ「やれ」と言われてきた私たち人間社会が我に返る時期としてこのコロナが起きたのではないかと思うぐらい、今、家具がよく売れています。それから、男性たちが台所に入るようになりました。キッチン道具を買いに来るお客様がとても多くなりました。これはある意味でとてもいいことです。それから、物をきちんと作っている人の展示会には、再開されて以降、作り手を気遣うお客様達がちゃんと来てくださいます。これは本当にありがたいことだと思いましたが、確かな仕事、確かなものに対してみんなが飢えていたのではないだろうかと思うのです。
私は、このコロナ禍を通り過ぎて上手にみんなで生きていけば、正常な社会に少しでもねじを巻き直せる時代が来ているのではないか、そういう方向に持っていくためには、作り手も、使う人も、そして私たちのようなつなぐ人たちも、みんなでこれまでの状況は異常だったのだと考え、もう一度みんなでスタートラインに立ったらいいという思いで、今回の審査をさせて頂きました。
ただ、今回出品された作品というのは、多分コロナ禍の前から作られていたものです。もちろんオーストラリアの火災を見ても何を見ても、もう地球は危ないというのは誰もが感じていたと思うのですが、そういう中にありながら全体の傾向としては、皆さんの仕事が非常に優しさや人の心に触れる良さを持っていたと思うのです。
それで、私が説明しなければいけないのは、この津軽塗の50cmある大盆の作品ですね。でも、盛器でもあります。どちらかというと七々子塗は、青森の風土の中で生真面目過ぎて、現代の暮らしに似合いません。ちゃぶ台などとしてハードに使うためには良かったかもしれないけれども、器とするためには「やり過ぎなのだよ。ここまでやったら現代の料理が目立たないでしょう。もっともっと現代の料理に合うように手を止めてくれたらいいのに」と思っていたら、この作品は非常にきれいに七々子が地紋のように出ています。
この面だけで展示されていたのですが、裏はどうなっているのかなと思ってひっくり返しました。すると、最初は私の1票しか入っていなかったのですが、ひっくり返した途端に皆さんが「いいね」と言って、票がどんどん入って私もすごくうれしかったのです。いわゆる七々子塗とはちょっと違う印象の、きちんとした裏を仕上げていました。黒止めしてしまうのが普通だったと思うのですが、両面を確かに使いながら、これは酒卓にもなりますよね。それから、床の間がなくなった現代の家庭では、この盆を一つ置いて、そこに花器を置いて、後ろに軸を下ろせば、仮床としても使えます。このように、非常に生活の中で多様な見せ方をしてくれます。私は久々に七々子の真面目さが生きてきたという思いで、これを金賞候補に選べてよかったと思います。津軽の本当に厳しい自然の中で、熱心に熱心に、これでもかこれでもかと言って研いでは磨いてきた方たちが、どこまでやればいいのか、何をすればいいのかということを、このコロナ禍の中で改めて見返す時点になってくれたらいいなと思いながら、この作品を選びました。
表面に、酒を飲むためにこれを敷いて、胡坐(あぐら)をかいて飲んでもいいだろうし、裏面にお料理を盛ってみんなで楽しく食べてもいいでしょう。一器多用、まさに新しい命を持ったこれからの七々子塗が生まれてきたなという思いです。青森という地域に新しい光を差しながら、また次の時代に入っていけるのかなと思いながら、この作品が皆様のご支援もあって金賞になったことを大変喜んでいます。後で、是非、持ってみてください。軽いですし、どこにでも置いておける良き器だと思っています。
やはり私は、器は心だと思います。形はもちろんですけれども、作る人の心と使う人の心が触れ合った時に初めて生かされます。財産のために買うようなものではなく、漆は使われてこそと私は思っています。使えば使うほど漆は美しくなります。皆様もお仕事をされている方が多いと思いますけれども、未来に向かってどうあるべきか、伝統を生かしてどうあるべきかということを、是非、考えて頂けたらうれしいと思いながら、この作品が金賞になったことを大変喜んでおります。

七々子塗盛器「陽光」

七々子塗盛器「陽光」
Nanako Lacquerware Large Dish “Sunlight”
W50 × D50 × H8.5
2019
白川 明美
SHIRAKAWA, Akimi (Japan)

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