田中 信行

田中 信行

田中 信行

漆造形家
金沢美術工芸大学 名誉教授

時代とともに、ものづくりの意味や思考、そして価値観は変化していきます。インターネットやAIが急速に社会を変える今日、表現のジャンルを問わずどの分野においても、「人の手によるものづくり、表現することの意義は」「心を満たすもの何か」など、改めて問い直す時代を迎えています。そのような中で、漆で表現すること、本当に表現したいものは何かという問いが、これまで以上に重要になっているのではないでしょうか。

今回、私が審査で特に留意したのは、技術や素材の美しさ、作品の完成度だけではありません。その作品はなぜ生まれ、何を目指しているのかという意図が作品に表れているかという点です。作品には作者の考え方や経験、生き方が自然に映し出されます。技術が優れていても必然性が感じられなければ深い印象は残りません。一方、未熟さがあっても、その人にしかない視点や挑戦が感じられる作品には、強く心を動かされことがあります。

漆はアジアで古くから受け継がれてきた自然素材です。伝統とは過去を繰り返すことではなく、その精神や技術の本質を受け継ぎながら、新しい時代に応じたその土地にしか生まれない表現を生み出していくことにあると考えています。今回の出品作からは、技術水準や素材への理解の向上を感じる一方で、自身の必然性を作品へどこまで結び付けられるかという点には、さらに深化の余地も感じました。

歴史が示しているように、漆はどのような時代になっても、人の心を惹きつける力と大きな可能性があります。本展が世界へ向けて漆の新たな魅力を発信し、多様な挑戦が生まれる場として、今後さらに発展していくことを心より願っています。

 

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