山村 慎哉

山村 慎哉
漆芸家
金沢美術工芸大学 学長
今回の国際漆展・石川2026には、漆の伝統を受け継ぎながら、現代の感覚や暮らしに結びつけようとする、多様な作品が寄せられました。器や加飾、立体造形、デザインなど表現の方向は幅広く、それぞれの作品から、漆という素材の奥深さと広がりを感じます。
審査では、技術の巧みさや完成度だけではなく、作者が漆とどのように向き合い、何を考え、どのような表現を生み出そうとしているのかを大切にしました。伝統的な技法を受け継ぐことは重要ですが、それを繰り返すだけではなく、現代の社会や暮らしの中で、漆にどのような意味を与えているかも問われます。
漆は、温度や湿度に左右され、完成までに長い時間を要する、扱いにくい素材です。しかし、その不自由さの中に、自然と向き合い、手を働かせ、考えながら物をつくることの確かさがあります。今回の作品にも、作者が素材と対話し、試行錯誤を重ねた時間が、形や色、質感の中に表れています。AIやデジタル技術が急速に発達する時代だからこそ、作品を実際に前にし、その大きさや重さ、表面の質感、空間の中での存在を身体で受け止める経験は、ますます大切になります。自然の素材と人の手が重なって生まれる深みや、見る位置や光によって変化する表情は、実物と向き合って初めて感じられるものです。
本展が、多様な作品との出会いを通して漆の現在と未来を考え、その魅力と可能性を世界へ、そして次の世代へと手渡す場であり続けることを願っています。
