講評会
奨励賞受賞作品(4点)について(2/2)
大西 ───── ありがとうございました。では、次に参りましょう。今度は川上先生にお願いします。広沢有子さんの「変わり塗り小箱」です。
川上 ───── 新潟の方なので納得したのですけれども、真鍮(しんちゅう)でつくられた円筒形のフタ付のケースのようなものに、髹漆(きゅうしつ)や彫漆、金や塗り分けなど変わり塗りのいろいろな技法を凝らして可愛いものに仕立て、今でいう印鑑入れや薬ケースに使えるものにしています。元々こうした変わり塗りで、私などが記憶に残っているのは江戸時代の刀の鞘です。粋を凝らして、蒔絵を凝らして、いろいろな素材の塗り方があって、おびただしい数の技法が残っているのを見掛けます。なかなか楽しいものではあるのだけれども、これを普段の携帯用とした場合、あまり力を掛け過ぎて普段使いで持ち歩くのも何かちょっと違和感があるから、実印などの大事な物を入れるしっかりしたものとしてこのような入れ物があったら、よりそぐうのかなと思ったりもします。
ただ残念なのは、恐らく既存の金物を使用されていて、蓋を身の部分にねじ込む際にキュッキュッという金属の音がしてしまうのが少し気になります。漆がご専門なので金属部分を同時に開発していくということは難しいと思いますので、できたら他の方とコラボするなど、道具として何を目的にどのように使うかという根本的なところも含めて、金属に漆を塗るという試みをしてほしいです。もっと変化に富んだものや、よりシャープな形もあるでしょうし、変わり塗りにおいても現代にそぐう加飾の種類はまだまだありますので、そういったことを突き詰めて、もう一段深く表現して頂けると更によくなると思いました。そういった意味でちょっと残念なところはあるものの、試みとして金属と漆の関係の中では珍しいものであると思いました。
大西 ───── ありがとうございました。この技法は昔から印籠やたばこ喫煙器具に使われた非常におしゃれな技法なのですよね。最近は煙管(きせる)を使って喫煙する人は非常に少ないでしょうが、とても丈夫なものです。だから、これからは例えばちょっとした文房具入れやアクセサリーを入れる容器など、可能性は無限にあろうかと思います。軽くてポケットに入れても全然重みがないので、これを新しい感覚表現として頭に置いて作られたら、非常に可能性の広い独自のものです。これは漆でないとできないものです。
大西 ───── それでは、次は山村慎哉先生に、大下香征さんの「十二ヶ月の蒔絵ピアス」をお願いいたします。アクセサリーですね。
山村慎哉 ───── やっと私の番に回ってきました。なぜこう言ったかといいますと、僕も作家で、加飾を中心として制作しています。展覧会の印象としては、出品数も少ないということもあるのですが、加飾の作品は上位に上がってこないというのがありました。特に今回のこの作品も、小さなサイズということもあり、最初はなかなか目立たず、ちょっと見過ごされていたようなところがありました。最終的には皆さんにじっくり見て頂いて、票も集めることができ、奨励賞を獲得することができました。
大下さんは山中の方で、家族全員が蒔絵を中心とした加飾の仕事をされていて、ある意味、漆を生業として生計を立てています。加飾という分野に限らず、漆を作る人間として重要なことは、一つは作ったものが人の手にしっかり渡っていくことだと私は思います。人の手に渡るということは、そこに魅力がなくてはいけませんし、一定のお金を出してそれを買ってもらえることがとても重要なのではないかと思うのです。そういう意味でも、現代の人たちにいかに加飾というものを通して漆を知ってもらい、使ってもらえるかを考えて、日々制作されているのではないかと思います。
内容はピアスです。12カ月ということで、12種類のいろいろな加飾や素材を駆使して作ったものです。1cm程度のものですので、本当にじっくり見ないと分からないのですが、例えば今までは使われていなかった黒い石(オニキス)や蛍石、パールといった素材の上に漆の蒔絵を施しています。この辺も非常に面白いと感じました。
それから、技術的な部分もしっかりしていないと人に魅力を伝えることができないという意味では、この作品は技術的にもしっかりしているものだったと思います。なかなか今は売るのが大変ではありますけれども、こういうものがどんどん世の中に普及していくことも一つ重要なことだと思いますし、デザイン性も非常に高いので先生方に評価されたのだろうと思いました。