講評会
審査員特別賞受賞作品(7点)について(3/4)
大西 ───── それでは、次は山田先生が非常にご愛顧頂いた作品です。
山田 ───── 画像だと分かりづらいので、是非、本物を見て頂きたいと思うのですが、小松勇さんの「清淵」は、9.6cmの立方体を八面体にした箱で、屏風絵のように各面に漆絵が施されています。これも先に紹介した金賞の白川さんに続き、偶然、青森の方が作りました。錫粉を使ったり、螺鈿の部分もあったりするのですが、青森の深い深いブナの森の中を、本当に山川草木悉皆成仏、山の中に神がいるという清々しい、精霊のある雰囲気を見事に箱の各面に描き出しています。身の側に大切に置きたいと思う宝箱に久々に出会ったような思いで見ました。
今年に相応しい、記念すべき箱の一つだと思います。森の神をおろそかにしたがためのコロナ禍ですけれども、私はもう一度自然に学び、自然と共に生きるということを象徴する八角箱だという思いです。そして、漆絵は美しいということを改めて感じております。その緑の色だけでも本当にたくさんの色を使っています。この方はディレクターをされているようですけれども、奥深い森の中で、森の命である漆を頂いてこういう仕事ができるということが、その方の文章に書かれています。私はやはり古来使われてきた美しき加飾の未来像の一つを示して頂けたのではないかと思いながら、こういう技術は今後に向けても、是非、皆様の中で育んでいって頂きたいという思いで拝見しました。
本当に小さいのですが、じっと見ていて飽きが来ませんでした。昔だったら美術館に入っていたような作品ですが、実は美術館に入っていたようなものも昔は全部使われていたのです。生活が必要としてきたので、私もできるならばこれだったら何とか手に入れて、私の宝箱にしたいと思うぐらいに心をひかれた箱です。是非、ご覧頂きたいと思います。じっと見ていると、大きな森の中に自分が入っていったような気持ちになります。
大西 ───── ありがとうございました。次に行きましょう。田中信行先生、お願いします。
田中 ───── 白濵真理子さんの「悠」を田中信行賞に選びました。審査員特別賞の7点は、上位の賞は数が限られているために、審査員特別賞という形になっていますが、本当にどれも評価された作品です。その中でこの白濵さんは実はまだ、私が勤めている金沢美術工芸大学の学生です。身近な学生に賞をあげるのは基本的に避けたいと私は正直思っていたのですけれども、この作品は私よりも皆さんが評価されて、上位の賞の選定でずっと残っていた作品です。
本人の意図として、自然界にある動きや形、うねりといったものをずっと観察して、乾漆、脱乾漆技法を使って表現した作品です。後ろの方が樹木のようにかなり力強い造形をしています。仕上げは塗り立てで終わっていますけれども、まだまだ技術的にも、造形的にもこれからの内容だと思います。何か引き付ける力を持った作品として評価されました。
大西 ───── 次は山村慎哉先生、お願いします。