講評会

銀賞受賞作品(2点)について(1/2)

金色に舞う Dance in the Golden

金色に舞う
Dance in the Golden
W90 × D29 × H56
2019
加藤 萌
KATO, Moe (Japan)

大西  ───── ありがとうございました。次は志甫さんにお願いします。銀賞「金色に舞う」という作品です。
志甫  ───── ここからは現物がございませんので、写真だけのご紹介になります。写真ですとサイズ感が分かりにくいのですが、鼻先からしっぽの先までが本人申告で約90cmですから、ほぼ実物大のキツネの像ということで、かなり迫力のある大きさです。作家をご紹介しますと、今は岡山県にお住まいの加藤萌さんという、やはりアート部門金賞の大谷さんと似たような年代の若手作家です。作品のタイトルは非常にロマンチックなのですが、「金色に舞う」です。本人が書いてきた作品の意図をちょっと見ますと、ご本人が秋の明け方に散歩している途中、山間を散歩していたのだと思うのですが、キツネが突然現れて、それがすごく一瞬のことで、紅葉の中にすぐに溶けるような感じで消えていってしまった、その一瞬をモチーフにこの作品を制作したと書いてあります。
実は、この作品は1次の画像審査の時から気になっておりまして、昨日、現物の本審査があったわけですけれども、どうしてもこういう作品が出てくると、動物ですので目が合ってしまいます。そうすると、どうしてもより一層気になっていってしまうのですが、最終的に銀賞ということで、そう感じられた方が審査員の中にもかなりいらっしゃったということなのかなと私は感じています。
作者とお会いしたことはないのですが、少しネット上で調べますと、乾漆技法であることと、地元岡山の神代(こうじろ)和紙ももちろん使っていらっしゃるし、目のところはガラスだと思います。こういうリアルな動物像を制作されていて、一部というよりもある程度、脚などに漆塗りを施してあるのですが、キツネ以外にも動物モチーフが多くて、ウサギやネコなど可愛らしいものから、シカなど自然の中で見ることができるようなものを連作で作っていらっしゃるようです。
画像でもそうですし、実物でもそうなのですが、不思議な感覚にちょっと陥りまして、なぜかなということを考えて見ているのですが、非常に具象的な動物像の一部に塗るという、朱合漆か何か分かりませんけれども、そういった漆を塗ることによって不思議な生き生きとした感覚が生じてくるのです。それと、塑像などにはない時間軸を有するというのですか、これはもちろん像ですから動きはしないのですが、かすかに動きが感じられます。作者の意図を読むからそう感じるのかもしれませんけれども、何か時間軸のようなものをこの作品の中に強く感じます。
従来の工芸やアート、美術のようなカテゴリーをあまり意識せずに制作している若い世代の作家が今は多いと思いますが、この方もその一人かと思います。それはそれで私はいいと思いますし、今後いろいろと活躍が期待される作家の一人と感じています。ちょっとばらけた印象の感想になりますけれども、コメントは以上です。

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