講評会
金賞受賞作品(2点)について(1/2)
大西 ───── 次は大谷佳那子さんの金賞に移りたいと思います。「影の展翅(てんし)」です。
田中 ───── 大賞を受賞された作品がある意味で象徴していると思うのですが、元々漆は自然との関係が非常に深い地域の文化資源です。あるいは、広げて言えばアジア固有の文化資源なのですが、そこには人間と自然との関係が濃厚に反映されています。
日本において漆は長い伝統があるので、技術を高めたものが作られ、そうしていろいろな展覧会があるわけですけれども、今回審査に関わって、全体的に自然を意識した作品がとても多いと思いました。漆をやっている方からすると当たり前のことなのだけれども、客観的に見ると、木の素のままの姿を求めています。漆自体も樹液であり、素です。それを加工していろいろ美しいものに変化していくわけですけれども、これは展覧会を見て頂くと分かるとおり、非常に素の自然のままを求めているというか、表した作品が多かったと感じました。中には高度な技術を駆使したものもあるのですが、まずそのことが全体に感じられました。
たまたま今、コロナ禍が起きて、改めて人間のあり様や自然との関係など、我々の身近なところから見直しているわけで、それがたまたま重なっているだけだと思うのですが、この時期に、まさに唯一の漆の国際展覧会として比較的新しいことが年齢・ジャンルに関係なくトライできるところが国際漆展・石川の一番意味のあるところだと思うのです。そういう意味では非常に反映されていると感じました。
賞は本当に民主的に票で決まっていますけれども、賞に届かなかった作品の中にもほとんど甲乙付け難いと思った力強い作品がありました。それから、写真の審査は本当に難しいと思うのですね。残念ながら1次審査で落選した中にも恐らく素晴らしい作品はあっただろうと思います。正直に言えば、本当に差がないのではないかと個人的に思うぐらい、素晴らしい作品、力強い作品があったと思います。
これは前置きですけれども、どちらかというとアート的なものについて私はコメントを求められるのですが、漆自体は先ほど言ったように、世界から見るとますます固有の美意識や感性を表しており、オーバーに言えば漆は思想も表していると思うのです。我々作り手は意識していないけれども、そこには大きな背景の思想もあります。
その中で、この作品は先生方の票が比較的自然と集まりました。表現を主体としたものの中で、造形作品としては僕の感覚で言うと比較的小ぶりかなと思います。でも、生活空間の中ではちょうどいいサイズかもしれません。作者は30代前半のまだ若い女性の方です。大学でオーソドックスな美術の勉強をされた、比較的オーソドックスな表現力、作品かと思うのですが、よく見ていくと、蝶が舞ってうごめいている様を表現したという制作意図が書かれていましたが、さりげないけれども非常に表現力のある作品だと思います。
塗りも黒の塗り立てで、もっといろいろな塗りの表現や加飾も展開できると私などは思いましたが、一見控えめだけれども、塗り立てのちょっとウエットな、漆黒のつやの微妙で複雑な凹凸の中に、まさに漆ならではの光が宿っている。その美しさを非常にうまくまとめた作品として評価されました。
あともう1点、アート部門とデザイン部門に分かれていますけれども、先ほど言ったように全体的にあまり意味がないかなとちょっと感じました。表現を主体としたものをあえてアートという言い方をしていますけれども、結局は自然につながるようなものをみんな感じて表わしているのかなと思います。だから、同列で見ていくと、我々にとって生かされ方としては全く一緒なのかなと個人的には感じました。