講評会

銀賞受賞作品(2点)について(1/2)

玉屋  ───── どうもありがとうございました。それでは引き続きまして、銀賞の作品2点です。初めにアート部門の作品、能條玲衣さんの「翠雨」です。田中先生、よろしくお願いいたします。

田中  ───── 能條さんの作品について説明します。今回の上位賞受賞作品は、審査員の先生方ほぼ全員の票が入っています。比較的機能を踏まえたもの、どちらかというと表現を主体にした造形的なもの、いろいろあるのですが、いずれにしても多くの票が入って上位になっています。
今回の大賞は伝統工芸の様式を踏まえた作品で、このような作品が大賞をとることは、国際漆展において今まであまりなかったことだと思うのですが、この作品にもある意味では現代的な感性が入っていて、枠を超えて評価をされた。やはり美しくて造形的にも非常に緻密な作品です。今説明があった金賞の2点もそれぞれ新しい可能性を含んでいて、ひとつは青森で長く経験を積まれた方の作品で、もうひとつは小さい作品だけれどもガラスと漆をうまくまとめたという印象の作品でした。
この作品の作者である能條さんは金沢美術工芸大学の4年生です。原型を粘土で作り、石膏型を取って、乾漆して脱乾して接合して、目には樹脂、その裏側に螺鈿を張って作っています。先ほど大西先生も言われていましたが、器物であろうが動物であろうが、形はどうであれ、漆を通して自分の心や精神を込めていくという、漆に関わる人に共通した思いがあると思うのです。若い人はこういう動物など、愛情を身近に感じているものを表現することが比較的多いと思いますが、この能條さんの作品は、そういうことに関係なく、初めて見た先生方もみんな惹かれたのです。もちろん年齢は一切関係ありませんので、それがこういう賞になった所以だと思います。
これは写真だと分からないので、秋の展覧会で実物を見ていただきたいのですが、本当に微妙な毛のテクスチャーや、目がすごくうまいです。そういった具象表現と合わさって、いわゆる塗りの表情とは違う、漆の下地である錆肌を生かした犬が、すごく主張しているわけではないのに、何となく人の心に訴えるものがあって、本当に良い作品だなと思いました。これは審査員の先生方みんながそういうふうに思って、この賞になってい
ます。
最後に、鼻を塗ったのがちょっと違和感があるなというのを先生方が感じていました。それから、これは私だけなのですが、ちゃんと裏を見ているのですよ。だから、輪郭もそうなのだけど、裏の中もちょっと手を入れるといいなと思いました。ただ、作品としては素晴らしいと思いました。

玉屋  ───── どうもありがとうございました。銀賞を受賞されました能條玲衣さんが会場にお見えになっているということですので、能條様、もしよろしければ前の方に出てきていただいて一言頂ければと思いますが、よろしいでしょうか。

能條  ───── 金沢美術工芸大学の能條玲衣と申します。今回このような賞を頂けて、とてもうれしい気持ちです。この作品は、目の表現や塗りの表現も結構新しい挑戦だったので、試行錯誤が多かったのですが、このような結果となってとても良かったなと思っています。ありがとうございます。

玉屋  ───── 能條さん、どうもありがとうございました。

銀 賞 翠雨 Blessed Rain

銀 賞
翠雨
Blessed Rain
W26 × D47 × H39
2021
能條 玲衣
NOJO, Rei (Japan)

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