講評会
奨励賞受賞作品(4点)について(1/2)
玉屋 ───── どうもありがとうございました。それでは引き続きまして、奨励賞に移りたいと思います。吉田まゆさんの「木の芽風」です。それでは志甫さん、よろしくお願いいたします。
志甫 ───── このスライドを見ますと作品のサイズ感は分からないと思うのですが、奥行き方向で9cmです。ですから、ものすごく小さくて、掌に載るぐらいのかわいい作品です。蓋物の作品になります。タイトルは「木の芽風」ということで春先だと思うのですが、優しい感じの湿度や温かみを感じさせ、やはり色が素晴らしいと思います。緑といってもいろいろな緑があるのですが、そういう湿度や温かみを感じるような緑色、かつ深い色がベースになっていると思います。
蓋を開けた写真が一部ありましたが、これでは中の蒔絵や加飾、いわゆる装飾が分からないのですが、外側から一変して、作品自体が本当に小さいですから、これ自身も文様としては小紋柄のような感じで、お花やちょうちょも飛んでいまして、そういうものが身と蓋の中に描かれているという感じです。ですから、外側の卵殻や螺鈿を中心にした爽やかな感じで、蓋を開けると世界観が一変して、小さな作品の中に二つの楽しみがあって、非常に豊潤な印象を受けるような作品であります。
昨日審査会があったわけですが、この作品にも多くの審査員の方々が投票しており、かなり議論の中で今回は奨励賞ということになりました。評価としては、小さいながらも表現の新しさとか、それから若い方なのでみずみずしさのようなものが強く感じられるという点で評価されたと思います。私自身もこの作品に対して、色彩の扱いや素材感、仕上げ(加飾)といったところのこだわりの強さが相まった小宇宙的な表現に非常に好感を持ちました。いずれにしましても、今後ますます活躍が期待される作家だと思っております。
玉屋 ───── どうもありがとうございました。引き続きまして劉宇さんの「香盒系列(The Incense Box Series)」です。それでは山村慎哉先生、よろしくお願いいたします。
山村慎哉 ───── この前の吉田さんと非常に似た感じの作品が、たまたまなのですけれど選ばれて、同じ賞になりました。ただ、内容的には全く違うと私は思っています。吉田さんの方は先ほど志甫さんからもありましたが、作家個人の世界観が非常に出ていて、ある意味すごく情緒的というか、アート的な作品です。それに対して劉さんは中国の方のようですけれども、男性で、作品はいろいろな技法を駆使してどちらかというとバリエーションで物を見せるような作品群になっていると思います。
一つ一つ見ていくと、非常に面白い形をしていたり、本当にいろいろな技法が使われています。私の知らないような技法が使われていたり、素地に関しても写真右上のピンク色のものは恐らく柑橘類をそのまま使ったのではないかというものでした。技法的には乾漆となっていますが、その上に下地をして、実は内側もいろいろなことが施されています。例えば面白い布を張っていたり、貝が張ってあったり、場合によっては蒔絵のようなことがされていて、いろいろなバリエーションの作品となっています。一個一個の完成度でいうとまだまだというところもありますし、日本の技術からすると少し甘いなというところはあるのですが、全体として面白いところを非常に感じられたということで、奨励賞になったのではないかと思います。
漆の小箱類は日本では歴史的にずっとありますし、中に入れるものは例えばお茶やお香などに限られるわけですが、お茶やお香というのはそれ以上のものではないのですね。それに付加価値を付けるために漆が役割を果たしていく。そこに中身以上の時間やお金をかけながら物を作り、中のものを守るという役回りがあって、この考え方が実は中国や他のアジアにもあるという意味では興味深いと思います。例えばミャンマーですとキンマ(噛む嗜好品)を入れる箱のように、嗜好品を大事にする文化の中でこういうものが培われているわけです。
この作品に関しても、題名は「香盒」となっていますので、お香を入れるものという機能では共通の認識のものですが、作っていく人の考え方で、だいぶ方向は変わっていくのだろうなということも感じられる作品でした。