講評会

奨励賞受賞作品(2点)について(1/2)

棗 ─────それでは、引き続きまして、奨励賞に移りたいと思います。アート部門の作品、小田伊織様の「Wear-ミモザ-」でございます。田中先生、よろしくお願いいたします。


奨励賞
Wear -ミモザ-
Wear –mimosa–
W21 × D28.4 × H9.4
2025
小田 伊織
ODA Iori(Japan)

田中 ─────工芸の意味や価値観、物を作る意味は時代に応じて変化しており、現在、社会の状況に応じて急激に変化しています。私は出品者と同じ漆作家の一人として、漆芸は幾多の工程を有し、制作にはとても時間を有し、技術も必要です。伝統技術の継承も大事です。但し、デジタルによる物作りや、AIが急速に社会を変革する現在、あらためて自分にとってものを作る意味を問いかけが非常に大切になっていると思います。
そして今、日本で漆の作品を世界から募って国際的な規模で開催している展覧会は、日本においてはこの展覧会だけなので、その点では非常に貴重な展覧会だと思います。
いろいろな展覧会がある中で、チャレンジをした皆さんに、私は同じ作り手として、ちょっと堅い言い方ですけれども、まずは敬意を表したいと思います。
さて、審査についてですが、審査をする上で、審査と言うとどうも上から目線なのですが、決してそうではなくて、年齢やキャリア等には関係なく、審査会場の中で作品が持つ印象で、これは他の審査員の方皆さんそうですけれども、公平に1票ずつ投じてこの結果になったということです。私は漆関係者、出品者の方をよく知っているのもあって、なかなか審査しにくい面も正直ありましたが、全体の印象としては、技術的にも表現的にもレベルが上がっているなということを感じました。本当に皆さん常に向上を目指して努力されているなと思いました。
上位となった作品は、塗りや素材感を生かしたシンプルな方向のものが、デザイン部門もアート部門も多いなということを思いました。私自身は塗りの造形を主体としている方向だけれども、決してそういうものばかりを別に好んでいるわけではなくて、客観的に、加飾や、他の方向性も、やはり漆を生かした表現として重要だと思っています。
小田伊織さんの作品について、コメントの担当として私の感想を言わせていただきますけれども、小田さんの作品は私は以前から知っています。ただし、直接手に持ったり、身近に見たりすることはなかったのですが、身近にじっくり拝見して、改めてこの作品に魅力を感じました。
一般的に、漆芸のもの作りは器物の形を基本として、独自な表現を目指して技術的な完成度を込めて、その中で美を考えることが多いわけですけれども、もう一方で作り手自身が感じていること、今生きていて自分がどういう視点に興味を持って、漆を使いながら表現していくかということが、これからの漆表現を考える際には大事だと思います。この作品は、作者にとって日常の身近な物をモチーフとしています。彼自身も制作意図で次のように書いています。「靴は自分と外の世界を繋ぐ身近なアイテムです。そんな靴をモチーフに、外の世界で出会った草木をテーマに作品にしています。今回の作品ではミモザをテーマに制作しています」。非常にシンプルで、あまり社会的メッセージや難しいことを言わずに、本当に身近に自分が感じたものを表現しています。靴も、日常のスニーカーです。漆というのは、時間がかかって、手間暇がかかって、素材も自然素材で、どうしても宝物作りになってしまうのだけれども、身近なものをモチーフにしています。彼は他にも身近な物をモチーフとして、作品の幅をひろげていってほしいと思います。
この作品は靴の表面ばかりを見てしまうのだけれども、裏の底面も非常に凝っていて、黒の中にスニーカーの靴跡などが巧みに表現されています。なので展示の仕方も工夫するといいかなと思っています。靴底の裏面を鏡などで見せるのではなくて、靴を脱いだ際に生まれる靴が裏返るような自然な感じの展示といいますか。そういう場面を想起させる見せ方も大事だなと思います。乾漆で制作し靴の隅々まで気を配り、塗りも上手だし加飾も丁寧です。一部、デジタルも使用しているそうです。私はどのように使用しているかは本人に聞いていないので詳しくは分からないのですが。作品から、一つ一つの仕事を丁寧に作られているのが伝わって、この賞になったということです。これからの漆表現の可能性を感じる作品として、エールも込めて講評をさせていただきました。

棗 ─────田中先生、ありがとうございました。

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