講評会
審査員特別賞受賞作品(7点)について(6/7)
棗 ─────それでは、次に、山村慎哉賞でございます。佐々木岳人様の「Montage」でございます。山村慎哉先生、お願いいたします。

山村慎哉賞
Montage
W33 × D18.4 × H10.3
2024
佐々木 岳人
SASAKI Gakuto(Japan)
山村慎哉 ─────佐々木岳人さんの「Montage」の講評をさせていただきたいと思います。漆という素材が私たちの想像以上に多様な表情を持っていることを、卓越した技術と現代的な感覚によって示してくれた作品だと思います。既に多くのところで活動もされていますので、ご存じの方も多いかと思いますが、今回の作品も、一見すると革で作られている、ファスナーが付いているケースのように見えます。ところが、近づいてみると、革や金属に見える部分も含めて、そのほとんどが漆によって生み出されているということに気付くことができる。何でできているのかが分かった瞬間、私たちは驚くと同時に、それまで自分が何を見てきたのか少し不安にもなるのかなというふうに思います。その感覚の揺らぎがこの作品の面白さに通じていると考えます。
漆は、ものの表面を美しく仕上げるだけの塗料ではありません。塗りや研ぎや磨き、さまざまな材料を加えることで、革や金属、そして布や石など、異なる素材感へと変化することができる塗料だと思います。これは、これまで日本の伝統文化の中で、刀の鞘に施された変わり塗、鞘塗など、日本の漆文化の中で長く磨き続けられてきた技法の一つです。佐々木さんは、その伝統を十分に理解した上で、今回は革・ファスナーという、私たちにとって身近な見慣れた現代の生活用品へと展開してくれています。古い技法をそのまま再現するのではなく、今の暮らしの中にある形を借りながら、漆の見方そのものを変えている点が重要だと思います。
漆は、実に扱いにくい素材です。温度や湿度に左右され、思いどおりにならず、完成までに多くの時間を要します。効率だけを考えれば、現代には似つかわしくない素材かもしれません。しかし、この作品の表面には、その不自由な素材と向き合ってきた時間や手の感覚が確かに残っていると考えます。AIやデジタルによって、革や金属に似た画像を作り出すことはもう可能な時代になりました。しかし、実際のものを前にしたときの重さや手触り、近づいて初めて分かる小さな違和感まで、画面の中だけでは伝わることはありません。この作品は、その身体的な経験を通して、漆の奥深さを私たちに改めて気付かせてくれます。
伝統技法を技巧の披露だけに終わらせず、現代の意匠と結び付け、漆だからこそ可能になる新しい表現へと高めた作品だと思います。その技術力と発想、完成度を高く評価させていただきました。以上です。
棗 ─────山村先生、ありがとうございました。
