講評会

奨励賞受賞作品(4点)について(2/2)

玉屋  ───── どうもありがとうございました。それでは引き続きまして、広沢有子さんの「変わり塗り万年筆」です。それでは川上先生、よろしくお願いいたします。

奨励賞 変わり塗り万年筆

奨励賞
変わり塗り万年筆
Fountain Pens
W15.3 × D1.7 × H1.7(各)
2023
広沢 有子
HIROSAWA, Yuko (Japan)

川上  ───── 奨励賞の広沢さん、おめでとうございます。太い万年筆はなかなか魅力があって私は好きなのですが、昔から、蒔絵の万年筆、特に高蒔絵などかなり精緻な万年筆があります。私も細身のものを持っていますが、ちょっと肩が凝るというか、あまりにも精緻過ぎて特別なときしか使えないと思って、ついついしまってしまうのです。しかしこれは、卵殻や金箔など色々なものを重ね、色々な技法を使っていても、少し力強い模様がほっとするというか、カジュアルな感じで、日常使いにも使えるな、というものになっています。作者の出身である新潟は色々な変わり塗りがある地域で、この作品にその技術を費やされているのだと思います。万年筆の太さがまた力強く、私も一本ほしいなという気がします。
出品作品はインクで書いてみることはできなかったのですが、個人的な考えですけど、できればスポイト式ではなくてポンプ式の昔ながらの方式があったらいいと思いました。それから、柔らかいペン先で、起承転結をしっかり書けるようなタイプのものがあれば、私はぜひ欲しいと思っております。
よく見ると、これはエボナイトの素材のようですが、蓋と本体との合わせ部分の仕上げが少し甘いように感じます。カジュアルなだけにこれでいいかということで仕事が終わっているのか分かりませんが、もう一歩突き進めて、カジュアルな中に、きちんと決まるところは決まるという要素があったら、本当に楽しくて気楽に使える、大事に使える魅力のあるものになると思っております。もう一息そこを詰めていただいて商品になったら、私はぜひ1本買いたいと思っております。今日は会場にお見えになっているのですかね。
前回、薬ケースを出品されていて、そのときも奨励賞だったと思うのですが、その作品は母体が金属の成形品で、ネジのところをそのまま使っていたので、漆を塗った部分とネジの部分とのバランスがもう一つだったという気がしておりました。今回ももう一息突き詰める作業が欲しいなという気が個人的にはしました。おめでとうございます。

玉屋  ───── どうもありがとうございました。それでは引き続きまして、奨励賞の作品、エストパサンチョ・ミレイア(ESTOPÀ SANCHO Mireia)さんの「36 Souls」です。山田先生、お願いいたします。

奨励賞 36 Souls

奨励賞
36 Souls
W42 × D42 × H8.5
2023
ESTOPÀ SANCHO, Mireia (Spain)

山田  ───── 私はこれを見たときに、孫に買いたいなと思いました。スペインの街ならではの、非常に美しい意匠の作品です。私の孫たちは私の家に来ると、まず物を描いたり、何か作りたいと言い出すことがあるのですが、それは道具がたくさんそこら辺にあったりするからなのです。きっと、この作品のような楽しい世界がそばにあれば、今の子どもたちは上手に飾ると思います。小さなときに、こんな風に美に対する感覚を育てることができれば最高だな、楽しいなというふうに思いました。漆作品の制作で残った木を使っているのだと思うのですが、これを上手に使いこなしてくださったというのはとてもうれしいと思うのです。
今日この方は来ていらっしゃいますか。来ていらっしゃらないのですね。ぜひお会いして、どんな思いでこれを作られたかと聞いてみたいと思うぐらい、楽しく審査をさせていただけた作品でした。ありがとうございます。また次の機会に伺ってみたいと思います。こういう展覧会の審査をするのは、私たちにとって大きな責任があり、ものに込めた思いを伺って発信することは、これからにつながっていく方たちに参加を頂きたいという呼びかけになると思うのです。
漆の美しさを小さなときから見ていますと、子どもたちの感覚は変わってくると思います。ですから、プラスチックの道具だけで遊ぶのではなくて、小さなときからこんな世界に出会わせてあげたい。残った材料でいいので、商いとしてもこんなものが出てきてくれることを願います。
パターンの一つ一つもさすがにスペインの国らしく、大らかで美しいのです。ここに学び、例えば日本の小紋の文様だけでも随分バリエーションができるので、残り木を捨ててしまわないで、多様な表現が生まれてくるといいなと思いながら、楽しく審査をさせていただきました。国際漆展ならではの楽しみを持つことができた良い例だと思います。
文様の一つ一つが洋服のパターンに非常に近いのですが、それを見事にこなしているので、漆の世界で例えばこんな文様のお椀ができたり、盛器ができたり、楽しい漆の世界もあるのだろうなと思いながら見せていただきました。審査をさせていただく者の幸せだと思いますが、今後ますます皆さまにもご活躍いただいて、楽しい漆の世界を多様に広げていただけたらと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

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