English

開催概要  Prospectus

上位入賞作品の講評

写真 [栄久庵] 今日、皆さまの前に出ているものは、本当にそういう面でその気持ちを満足させていくのではないかと思っています。先ほど大西さんから、中国の許Kさんの作品「相思」の説明がありました。まず何をコンセプトに考えているかというと、あえて言うならば、この作品はわれわれの知っている中国の詩歌管弦の見事な漢詩を引き出し、人々の心の姿を表しています。
 黒いものが男性、赤いものが女性で、男女の関係を表しているのです。日本の「万葉集」には、男女の話が非常にきれいに書かれていますが、それの中国版という感じがしました。詩というものを形化していくとき、今まではお盆やスプーンなど具体的なものが多かったのですが、この場合は見えないものを形にした上に、はっきり見えないものに意味を持たせています。ここにある4作品は、そういう点では非常に当たり前のもののようですが優れています。当たり前ということは、大変大事なことです。
 この大賞の作品を、自分の机の上にペン皿などとして置いておくと、机が光ってくるように感じます。机自身の価値も、自分自身の価値も上がっていくような、単純にして非常に直裁ですが、非常にデリケートな形を持ちながら作られたもので、本当に感心しています。そのようなことで、この作品はグランプリを取りました。ほかのものも皆、以下同文のようなことです。
写真  金賞は、私の目の前にあるかんざし「花蝶風夜」で女性の作品です。女性が女性を美しく見せるということはとても良いことで、かんざしによって、女性が女性をさらに美しくするということです。この作品は大変珍しい形をしており、頭の形をなぞらえて作られている上に、技巧が非常に優れています。初めは随分年配の人かと思いましたが、意外と若い人が作っていました。人間の肉体に接するのはなかなか難しいことで、ギリシャなどの他国にはあまりないものだと思います。
 銀賞の「うつわ-blow-」は、最初に見たとき、大変、大らかな形だと思いました。大らかさは気持ちを悠々とさせます。特に口の部分で、大らかさが人の気分を楽しくさせるということで、魅かれるものです。
 同じく銀賞の「生命の欠片」は初めて見る、一つの新しいタイプの紙の形です。紙を漆で固めた基本造形の上に、いろいろな漆の色彩を固めて、宝石を硬め込んでいるという点においては、私の表現で言うならば、マンセルの色彩表を形化していったものです。
 マンセルの色彩表は単に並べてあるだけですが、それを形にしたらどうかということで、目に刺激する色を手に取って形化することは非常に難しいのでしょうが、それを成し得ています。この4作品の中では、非常に特異な存在だったのではないかと思って感心しています。ちかちかと入っている色が、またとても気が利いていて、私は非常にうまみを感じました。
 私は審査会場に来るまでは、退屈するのは嫌だなといつも思っているのですが、今回は審査のときに退屈しませんでした。変化に富んだ皆さんの日常生活がそのまま出てきて、それがグローバルになっていくだろうということを見ました。特に新たな中国の方々の作品が沢山出てきました。そういう面で、世界的リソースの道筋を作ったということにおいて、参加された皆さん全員が押し上げていった、機会を作っていった審査会でした。

[大西] 次に沈金がご専門の前先生から、今後の期待のようなものを込めて、全体像をお話しください。

写真 [前] 今回で3回目の審査に当たりました。前回2回はスライド審査には参加しませんでしたが、今回は初めから通して見ることができました。
 輪島から出品された奨励賞の作品は、銀地の編み目の模様になっています。編み目を細かく漆で描いてあり、手触りはややざらざらしています。作品名は銀地網目紋長皿「実り」です。編み目の調子が広く見られて、レースのような線の表現が誠に美しく、縁の方に金粉をまいて、器物をきりっと引き締めています。ボディは木で「刳りもの」という技法で作っていますので、持ったとき塗りものの重さを感じます。
 非常に細かい線が描いてありますが、「典型と細部の真実」という言葉がありますが、ほんの小さな一部分を見た場に、全体像が理解できるという意味です。典型とは本質的という意味です。そのように、作品の細部をクローズアップすると、作品の感動の真実が見えてくる感じがしました。
 ものを作りたいというイメージから形に持っていくには、当然のことながら素材を扱う技術が必要になります。特に工芸となると、その素材と真っ正面から向き合うことになります。素材を十分生かして、最終的にどのような表現に持っていくかが要求されます。この作品については、そのようなことがよく表現され、非常にきれいな作品にまとまっていると思います。
 奨励賞の曲輪造盤「沈金菱小紋」は、桐とアテの木の組み合わせです。楕円形の縁は木を何枚か重ねて曲げ輪を作り、朱で塗っています。これも先ほどの編み目と同じように、細かく模様が施されていますが、この技法が私の専門である「沈金」です。右の方から全体に菱紋をのみで点彫りで彫っています。
 細かく点でつないでいて、遠くからだと線になって見えますが、非常に調子がよくて大きな点と小さな点の強弱を付け、右から左へグラデーションでぼかしてあります。これは最後に色を入れるときに、金箔を入れて、素彫りの方に持っていく技法です。器物にあまりじゃまにならないような模様で補足されているところがいいと思います。
また、沈金の技術が確かです。相当ベテランの方ですが、素晴らしい作品だと思います。デザインと技術の二つは車の両輪と私どもはよく言いますが、バランスよく組み合わさって表現されています。

[大西] どうもありがとうございました。次に、韓国からの奨励賞、漆で染めてある作品です。これは権先生から詳しい説明があるかと思いますが、漆の活用で幅広い展開を試み、実用的な面のいわゆる研究を非常に熱心にされているお坊さんの作家の作品です。
 前回も、布に漆を染み込ませたものがありました。漆を染み込ませるとどうしても硬くなるのですが、その問題が解決できたとき、漆ならではの深い味わいが生まれてきます。この作品は、その点がかなり改良されていて、非常に柔らかく、肌触りも非常に良いものとなっています。

写真 [権] 今回も審査員として招待いただき、本当に光栄です。韓国には大きなお寺が四つあります。その中の慶尚南道にある通度寺は大きな寺です。その寺で、一番上のお坊さん・大師であるツ鳳周さんは、20年前からお寺で天然の漆を研究して、釜山の大学の先生に天然の漆の仕事を教えてきましたが、5〜6年前から天然の漆で染めたいと考えました。
 漆で染めると、天然の塗料とは色が全く違って彩度が高くなりますし、乾いたら硬くなります。これは漆だけで染めていません。漆だけで染めると硬くなりますので、まず天然染料で染色をして、それからまた漆を入れて染めるのです。最初から漆で染めると色が出ないのです。
 ツ鳳周さんは5〜6年研究されていて、韓国でもいろいろな会社から仕事の依頼を請けています。今回は韓国の伝統的なデザインで服を作ったのですが、これからもっとツ鳳周さんの研究が進むと、もっと柔らかい生地ができるのではないかと思っています。
 今回の審査会場に入って、これまでに比べて全体的に作品がサイズは小さくなったような気がしましたが、本当に驚いたのは、若くなったということです。これはとても良いことではないかと思います。
 石川県から出品された作品の中には、若い人の素晴らしい作品が沢山ありました。それから、中国からの作品は、今までのような中国らしい作品ではありませんでした。日本の作品にかなり影響を受けたのだと思います。中国ではあちこちでたくさん展覧会が開催されていますが、大賞の「相思」のような作品はありませんでした。今回、中国から出された作品は、昔の中国風ではなく、現代的な作品が出ていたと感じました。

[大西] 布の漆染めのツ鳳周さんには私も何度かお会いしており、知っています。非常に活動的な方で、いろいろな布を染めるだけではなく、たくさんの若いお坊さんたちと一緒になって、新しい活動に非常に積極的に取り組んでおられます。この方は、金沢美術工芸大学に一時、研究生か何かで留学されたことがあるそうです。意外と専門分野以外のところから、漆に対する関心というか、積極的にやろうとする活動がだんだん広まっています。今後に期待したいところです。
 それでは山村先生に、奨励賞の「うつろい」について、解説をお願いしたいと思います。

写真 [山村] 今回で2回目の審査をさせていただきましたが、全体としてとても印象深く思ったことは、素材の幅広さです。例えばケヤキ、竹、桐、繊維、陶磁器、布、網、紙などの多様な素材を用いて、漆の独特の技術で美しい造形に取り組み、しかもそれに対して金箔、銀箔、卵殻、螺鈿といった加飾の多様な素材を見事に使いこなして、非常に幅広い作品がたくさん見られました。
 先に解説のありました銀賞「うつわ-blow-」も、下はケヤキで上は乾漆という不思議な組み合わせです。こういうことも今回の作品に多く見られた特徴ではないかと感じました。
 さて、この奨励賞「うつろい」という作品は、幅1m以上の大ぶりな作品ですが、立体の造型が非常に不思議で美しい。特に馬蹄形の凸部から扇状の凹部に流れ込む美しい三次元のカーブの変化は、本当に見事です。大きな作品になると、面をきっちり作り込むことについ隙が出て、遊びが多くなりますが、ゆったりとした造形ではありますが、とても緊張感のある面の処理をしています。面と光のオーケストラというか、本当に美しい仕上がりになっています。また、この作品は裏側も美しく、ひっくり返して裏から見ても素晴らしい作品と言えるほど、きれいに仕上がっています。
 私は工業デザインの仕事をしていますが、三次元の面の凸部から凹部に流れ込むという形状は非常に難しいものがありますが、それをこの大きな作品でありながらも見事に解決して、美しく調和された作品に仕上げています。ずっと見ていても、本当に飽きません。造形とはこういうことかとつい思う、一見メビウスの輪のような不思議な感覚を三次元の立体で感じさせられる美しい作品です。
 今回は、非常に大きなものから小さなものまで、たくさんの作品が集まりましたが、それぞれ素材の使い方がとてもセクシャルで、冒険的に挑戦されているところが素晴らしいと思いました。それから漆という、いろいろな素材や文化を接着していく、まさしく匠の技が、今回の国際漆展ではいかんなく発揮されたのではないかと思います。
 目の前にある4点もそうですが、みんな違った思想なり哲学を持って生み出されています。審査会は、大西委員長がおっしゃるように本当に混戦状態で議論百出で、なかなか難しかったです。それぞれが違ったステージの一つの演出力を持っていたからではないかと思います。
 本当に多様な素材がうまく生かされ、多様な加飾材が見事にそれを演出していくという素晴らしい作品がたくさん見られました。震災の影響で、海外からの応募点数は少なかったようですが、質としては素晴らしい漆展であると思いました。

PAGE TOP

事務局

国際漆展・石川開催委員会
〒920-8203 金沢市鞍月2丁目20番地
石川県地場産業振興センター新館4階 (財)石川県デザインセンター内
TEL(076)267-0365 FAX(076)267-5242
http://www.design-ishikawa.jp/

Secretariat

The Secretariat Office of the Executive Committee
The Ishikawa International Urushi Exhibition

c/o Design Center Ishikawa
2-20 Kuratsuki, Kanazawa, Ishikawa 920-8203 JAPAN
Tel: +81-76-267-0365 Fax: +81-76-267-5242