Discussion
審査講評(2)
審査の概要報告
大西 ───── 26 年前に石川県主催で始められた国際漆展は、多くの方々のお力添えを頂いて、今回で 10 回目を迎えます。私と栄久庵先生と小松先生は、世界へ開かれた展覧会にしたいという期待と未来への展望を持って、第1回目から参画させてもらっています。漆は本当に素晴らしい素材であり、アジアでは長い伝統を持つ文化になっています。その漆が世界の人類にとっていかに大事かを忘れてはいけないという意味で「国際漆展」と名付けました。人類は目先の毎日の生活にとらわれて、漆の使命や価値、重要性を往々にして忘れがちですが、IT革命が強烈に社会変革をもたらしている今、漆についてもあらためて掘り下げてみる必要性が出てきています。社会から突き付けられているさまざまな問題も含めて、漆について議論を重ねていくことが、この展覧会の意義だと考えています。
今回はロシア、ブラジル、また初めてオランダからも応募があり、国際展の意図が世界各国に広がっていることを確信しました。それぞれの国の特徴を刺激し合う機会を広げていくというステップを着実に踏んでいることは、大変喜ばしいことです。できれば全ての作品を現物作品でじっくり審査したいところですが、やむを得ず作品画像による1次審査で点数を絞った上で本審査を行い、受賞作を決定しました。今回の応募作品は、全体として時代を非常によく反映していると思います。新たに「デザイン部門」と「アート部門」を設けましたが、本来、アート的精神がないとデザインも駄目で、デザインの計画性がなければアートを作るのは難しいということで、その区別には非常に悩みました。しかし、現代社会では経済効果が重要な役割を果たしており、アートにおいてもデザインは無視できないということで、このような設定にしました。
漆工芸では、一時、想像をかき立てるオブジェ的なものが多く展開されてきましたが、漆は単なるアートを作るための素材ではありません。漆は1万年以上にわたる人類の精神世界との深い関わりの中で発展してきたものですから、自問自答して「用」の中に「美」を発見する哲学を深めていくことが大事です。今回寄せられた作品は、オブジェという幻影的なものに未来を託すだけではなく、人間の生活の場において直接触れる美の世界が漆の中に確実にあることを感じさせました。オブジェから用へと移行する大きな流れが 感じられたことは良い方向で、今後、この流れがさらに深まっていくことを期待しています。