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審査講評(3)

大賞・第10回展記念特別賞作品の講評

犀の賽銭箱,Incense Container Rhino
犀の賽銭箱
Incense Container Rhino
H13.5×W10×D24
2013
彦十蒔絵 若宮 隆志,HIKOJUMAKIE WAKAMIYA, Takashi
彦十蒔絵 若宮 隆志
HIKOJUMAKIE
WAKAMIYA, Takashi
(JAPAN)
蓄音木ピアノブラック,Sound Booster
蓄音木ピアノブラック
Sound Booster
Grand :H12×W12×D12
Upright :H9.7×W9.7×D9.7
2014
AZUMA, Yasuhiro
東 康弘
AZUMA, Yasuhiro
(JAPAN)

大西 ───── 大賞は、若宮隆志さんの「犀の賽銭箱」という作品です。語呂合わせのような面白いタイトルですが、犀の造形が見事で、眺めて楽しむという要素の他に、実際に手に取って仕掛けに込められたものを発見するという、今までにないスタイルを提示しています。伝統的技術をしっかり踏まえつつ、漆ならではの良さ、面白さ、緻密さが込められていて、漆の新しい一つの未来像を示していると思います。動物をモチーフにした作品はよく見ますが、その中に仕掛けを用意しているところがユニークで、ただ飾って鑑賞するだけではなく、触れて楽しむという要素を取り込んで、工芸の世界を広げています。
 古代から、人類は犀に神の力を感じてきました。中国の歴史遺物にも犀は多く使われていますし、日本でも犀の角は漢方薬として利用され、正倉院御物には聖武天皇愛用の薬として今でも保存されています。犀という非常に神秘的な動物のパワーを、いろいろな要素をうまく取り入れて現代の暮らしの中に提示し、私たちにさまざまなことを想像させてくれる作品だと思います。
 それでは、栄久庵先生にもお話を頂きます。

栄久庵 ───── 大賞受賞作品についてご説明する前に、その前提となる私たち日本人の生活感の変遷を振り返ってみると、終戦後、日本人は白物家電をはじめとする米国の生活形態を見て感心し、憧れました。日本人は、敗戦で落胆しながらも自暴自棄になることなく、未来を求めたのです。負けてたまるかという気持ちが経済成長を支え、われわれは今日の生活を手に入れました。しかし、それから数十年たった今、日本には物があふれ、海外にはもはや買うものがない、留学や観光に行く必要もないということで、多くの人が退屈を感じています。
 それを何とかしたい、何か変わったものはないかと探す中で私が行き着いたのが、漆の世界だったのです。かつて、漆は防腐剤として遺体を納める箱に塗られていました。それが工芸の世界に入り、特に室町時代あたりから発展して、仏具など驚くほど精密な工芸品が作られましたが、日露戦争以後、軍事色が濃くなる中で漆芸は忘れ去られていきました。戦後しばらくして、文学や建築など、さまざまな分野において日本の良さを再発見しようという動きが出てきましたが、反面、漆芸は頭打ちになったのではないかと私は感じていました。
 近年の国際漆展への応募作品を見ても、どれも変化に乏しく、蒔絵のように光り輝くものも、目を見張るほど精緻なものもありませんでした。漆という伝統工芸ですら壁にぶつかったと感じさせられていたのですが、今回は大変見事な、新しい漆の工芸品がありました。それが、グランプリを受賞した「犀の賽銭箱」です。値段が高く、量も少なく、家庭では使われなくなった四角い漆の箱ではなく、三角にしてみたらどうか、もっと飛躍した形がないかということで、動物という変わったところに目を付けて、あらゆる漆芸の技術を駆使して作られています。しかも、それだけではつまらないと、いかに面白く見せるかが考えられているのが愉快なところです。

栄久庵 ───── この作品は、形を見ただけでも驚かれると思いますが、首が上がって中から賽銭箱が出てくると、本当に驚きます。からくりが大変よくできていて、これは技術の勝利だと思います。からくりは日本において大変歴史と伝統のあるもので、かつ非常に未来性があります。現在のメカニズムの多くはからくりでできているので、その作り方は電子工学に匹敵すると思います。この作品を居間でお客さんに見せたら、きっと大騒ぎになって、特に子どもがいたら大変なことになるでしょう。誰もがこれを見て楽しんで帰られるということは、これ自身が生活に豊かさを与えたということです。
 普通、工芸品は床の間に飾ってあるものですが、私はこの作品を見て、厚化粧をして乙に澄ました漆が、急にヌードになって踊りだしたように感じました。このようにトンチの利いた奇異な作品が生活の中に生まれ出てきたのは大変前衛的なことで、漆でも人を楽しませる、おもちゃの類に匹敵するようなものができるのではないかと考えて作られたのだと思います。人を楽しませることは工芸作家の使命です。今はこの作品一つだけですが、何年かすると他の動物が出てくるかもしれません。いずれにせよ一つの変化やドラマを楽しむ、生活感があるというところに意味がある作品です。
 このような作品は、既存の工芸価値に固執していたのでは絶対に作れません。審査会においても、これを大賞に選ぶと審査会の質が疑われるのではないかというような議論がありましたが、最後はわれわれも固執を捨てることにしました。私は70年近くオートバイのデザインを手がけてきましたが、今にオートバイが空を飛ぶようにならないかと考えています。つまり、破壊的な仕事は創造を意味するということが言いたいのですが、新しいもの、面白いものを突き詰めて作ることが大切だと思っています。

大西 ───── 次は、第10回展記念特別賞を受賞された東康弘さんの作品です。先に作品の音を聴いてもらいます。

山村 ───── 今、皆さんも音を聴かれましたが、これは本当にシンプルに、真四角に塗り磨かれた漆のボックスです。最近はやっているiPhoneのスピーカーとして、漆の特性である音響効果をよく考えて工夫されています。特に人間の耳に心地よい中音域に的を絞り、表面がきっちり塗り固められることで音圧が上がる効果がさらに増幅するという特徴を、シンプルな形の中に上手に活かしています。iPhoneを落とし込むと、ホーン型のスピーカーからきれいに流れる音を楽しむことができます。電気仕掛けが何も要らないので、おしゃれな携帯置き場としても使えますし、部屋の片隅に置いてメモスタンドとしても使えるなど、多様な使い方ができる、とてもよく工夫された商品です。今までも石川県では輪島塗のスピーカーが開発され、世界に発信されていますが、この作品は特に中音域に焦点を絞り、とても心地よい音を出すことを工夫された点が大変好評でした。

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