Discussion
審査講評(7)
審査員特別賞作品の講評
Blackberries’ Dream
H5.5×W29.5×D11
2013
MANI
H36×W28×D28
2014
Time Capsule of Life
H43×W35.5×D38
2013
乾漆燭台—月明り
Candle Holder - Moonlight
H21×W23×D23
2013
リュトン型コップ
Ryuton Cup
各 H16.5×W14×D9
2014
蓮の葉皿
Lotus Leaf Plate
H4×W30×D30
2014
大西 ───── それでは栄久庵先生より、審査員特別賞の「Blackberries’Dream」についてコメントを頂けたらと思います。
栄久庵 ───── 審査員特別賞 栄久庵憲司賞の「Blackberries’Dream」は、幅 29 cm、奥行 11 cm、高さ 5.5 cmと、決して大きなものではありません。文箱の小さいもの、あるいは鉛筆入れの大きいものと言っていいかもしれませんが、様々な技法を使い、漆を重ね合わせて蛍の光を醸成しているところが大変きれいな作品です。私はかねてから国際漆展の出品作を何点か購入することにしているのですが、こちらも個人的に欲しくなるような、愛玩できる製品です。ロシアから参画してくれたことの喜びも含めて、良い記念にもなるのではないかと思っています。これを機会に、今後もロシアの人たちには頑張っていただきたいと思います。決して漆という感じがしないから不思議です。皆さんも、展覧会で手に取ってお楽しみください。
大西 ─────次は、審査員特別賞 大西長利賞「MANI」です。チベットに行くと「マニ車」という大きなものが天井からぶら下がって回っているのを目にします。中には真言密教の経典が入っていて、1回まわすごとにお経を読むという性質のものです。チベットは「地球最後の砦」と言える雰囲気のある場所ですが、今、中国がそこを観光地化しようとしていて、文明や文化が破壊されるのではないかと危惧されています。ダライラマがそれを阻止するためにインドに逃れ、そこからいろいろな指導をしているのですが、その信仰において大切なものがマニで、大きなものから手で持ち歩けるほど小さなものまであります。
私も長年、チベットの漆の調査に行っていますが、チベットの人たちも漆が大好きで、あらゆるものに漆を使っています。大西長利賞の受賞作品の作者である井波純さんは輪島出身の方で、チベットへ一緒に調査に行った一人ですが、マニ車に大変刺激を受けていました。この作品はろくろと同じで、回転によって成り立っています。彼はこの展覧会に毎回出品しており、ろくろの造形物が多いのですが、今回は非常によくまとまっていると思います。大きさは直径 30 cm、高さ 25 cmで、回転させながら手で触れることができます。
漆は人間とともに暮らすことで変化し、使う人が新たな美しさを生み出すところが特徴だと先ほど言いましたが、恐らくこれも使っているうちに手で触るところが変化し、時間、空間、人、祈りなどが合体して、100 年後、 200 年後には素晴らしい美術品として人々に愛用されるときが来ると思います。反現代的なものの考え方ですが、生きていることは皆共通で、時間も空間も同じです。この作品は、そういうものを提案したところに東洋精神が感じられ、そばに置いておきたいと思い、推奨しました。
次に小松先生より、審査員特別賞 小松喨一賞のスツールについてお願いします。
小松 ───── アメリカの金宣和(キム・スンファ)さんの「Time Capsule of Life」は、座った時の人体の動きや人体の中の動きなどを形態に反映し、さらにその中に人の心を打つようなユリの花の文様がうまく収まった作品です。なかなかモダンで斬新なスツールだと思います。
大西 ─────それでは、権先生が推奨された楠田直子さんのキャンドルスタンドについて、簡単にお伝えします。
審査員特別賞 権相五賞「乾漆燭台―月明り」は、直径 20 cm、高さ 15 cmの乾漆の作品で、内側に金箔とプラチナ箔をうまく対応させながら貼り、真ん中にキャンドルを灯しています。ろうそくの光がプラチナ箔と金箔に反射し、それがまた金箔に映るというように、揺らぎが膨らみ、光の反射に効果をもたらす作品です。楠田さんは奈良の方で、毎回キャンドルスタンドを出品されています。今回は権先生も非常に関心を持たれて、曲面が素晴らしいことを皆さんに伝えてくださいということでした。「光の揺らぎと形の曲面とが融和し、幻想的な空間を作り出している。」というコメントを頂いています。
次に前先生より、審査員特別賞 前史雄賞「リュトン型コップ」についてお願いします。
前 ───── この角型のコップは、脱乾漆で作られています。乾漆の技法は中国から日本に伝わったもので、仏教伝来当時、仏像を担いで普及して回るために、金銅仏の代わりに軽くて丈夫な乾漆の仏像が作られました。この作品の特徴は、軽くて丈夫で手触りが優しく、変わり塗りの石目仕上げであるところで、スズの石目、銀の塗りぼかし、研ぎ出しといった表面処理の美しさが感じられました。一応、コップとされていますが、別の使い方もあると思います。それから、使われなくても使えるものが大事だと思っているのですが、この作品は飾っても楽しめますし、使おうと思えば使える楽しい作品だと感じました。
大西 ───── ありがとうございます。最後に山村さんより、審査員特別賞 山村真一賞の「蓮の葉皿」についてよろしくお願いします。
山村 ───── 山村真一賞は「蓮の葉皿」です。蓮は日本をはじめ、アジアではもてなしの花として大変親しまれていますが、この作品は、その蓮の葉をモチーフとしたお皿です。小さなカンナやノミを使って手で削り出していくという根気のいる生地加工の作品で、素材のホオノキの軟らかな質感と軽い持ちやすさが優しく、もてなしのお皿としてはとても素晴らしいと思いました。もちろん生地の上には漆塗りがきっちり施されていますが、意外にもろくろやルータではなく、手技を駆使して仕上げられているという最近では珍しいお皿です。不思議なハイライトやウェーブが、蓮の葉と言われなくても優しい変化をもたらし、お茶請けの皿として料理やお菓子を非常に際立たせてくれる一品になっていると思います。
大西 ───── ありがとうございました。