Discussion
審査講評(6)

奨励賞作品の講評

ボリュームVolume
ボリューム
Volume
H41×W23×D26
2013
真  Genuine
真 Genuine
H16×W55×D19
2014
つらり  TURARI
つらり TURARI
S : H7.3×W6.0×D6.0 / M : H7.3×W7.5×D7.5
L : H7.3×W10.5×D10.5
2011
ボタンダウンピアスButton Down Pierce
ボタンダウンピアス
Button Down Pierce
H12×W0.9×D0.9
2013

大西 ───── 次に、小松先生より、アート部門奨励賞の「ボリューム」と「真」についてコメントをお願いします。

小松 ─────伝統と斬新さの調和を基軸として、これまで10回にわたり国際漆展を開催してきましたが、今年は伝統と斬新さの調和という観点からすると、少し弱いような気がしています。一方で、漆の可能性の追求という観点については、音を利用するなど非常に目新しい作品がありました。かつて金沢城の御細工所では、金属や漆などさまざまなものがコラボレーションして兜などの武具が作られていました。今まで金沢ではそうした観点でものづくりをしていましたが、来春、金沢まで新幹線が開通すると、これまでとは異なる視点を取り入れていかなければ、時代に取り残されてしまうのではないかと私は考えています。
 その意味で、国際という新たな視点からさまざまなことにチャレンジする展覧会は世界でも珍しく、日本では石川県の国際漆展と国際ガラス展だけです。ガラスについては、そもそも石川県には伝統がありませんでしたが、人材育成から始めて少しずつ軌道に乗り、ガラスのものづくりが見られるようになってきました。漆については、輪島塗、加賀蒔絵、山中塗などの大きな流れがありますが、数ある工芸の中でも一番扱いにくかったかもしれません。それでも金沢では最も評価される工芸として続いてきたので、これを新たな視点から見直し、持続させるという意味でこの国際漆展は重要なものであり、今後も頑張っていただきたいと思います。
 さて、アート部門奨励賞の「ボリューム」は、女性的なフォルムが朱と一体となって視覚的に集約され、訴えが大変明快に出ています。強くはありませんが、非常に温かい何かが感じられます。このような作品は、単純ではありますが、普遍性や可能性を追求するという意味では大変良いと思います。
 もう一つの「真」は、黒の漆の呂色(ろいろ)仕上げの作品です。先ほどの朱の器とは違って非常に男性的で、心の祈りのようなものが感じられます。非常にぎりぎりのところで自分自身の形が一つにまとめられており、先ほどの朱の作品とは対照的な考え方が見られるような感じがします。いずれも非常に目立つ作品であり、大きな可能性を秘めていると思います。

大西 ───── それでは山村さん、デザイン部門奨励賞の「つらり」と「ボタンダウンピアス」についてお願いします。

山村─────デザイン部門奨励賞は二つあります。一つは「つらり」という器です。この作品は、山中に昔から伝統的に伝わる、ろくろで細かい目を入れる千筋という技術をカップに施しています。外形は、へこんでいるものと出っ張っているものの2種類がありますが、いずれも千筋がしっかり入っていて、デザインだけでなく、機能的にも使いやすい器に仕上げられています。しかも、これを順番に積み重ねるとすらりとした形になることから「つらり」という名前が付けられたそうですが、とてもシンプルな形で使いやすく、湯飲みとしても、器としても、とても優しい形に仕上げられています。生地の色のものと、黒の漆で仕上げられたものの2種類があり、両方とも素晴らしい出来だと思います。
 もう一つの奨励賞は「ボタンダウンピアス」です。最近、クールビズでネクタイをしない方が増え、その代わりにおしゃれなボタンダウンのシャツを着るようになっていますが、どうも襟元が寂しいということで、そこに10mm以下の本当に小さなアクセサリーを付けるという企画商品です。素材は蝶貝で、テントウムシやサッカーボールなど細やかなデザインの蒔絵が施され、ワンポイントとして美しく襟元を際立たせています。漆の小さな優れものは意外に少なく、数あるアクセサリーの中ではひときわ目立っていました。ベースとなる金具や取り付けもとてもよく考えられており、使いやすそうです。小さくても力のあるアクセサリーとして、今後ますます使われると思います。

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