Discussion
審査講評(5)

銀賞作品の講評

Jewellery Box
Jewellery Box
H5×W26×D26
2014
ICHIMATSU
ICHIMATSU
各 H1.5×W26×D15
2014

栄久庵 ─────アート部門銀賞の「Jewellery Box」です。これはオランダの方の作品ですが、日本の幕の内弁当を意識したものではないかと思います。漆でふたに模様が描かれており、開けてびっくり、閉めてびっくりの作品です。細工物が極めてきれいなのですが、どちらかといえば一般的であり、これがアートとして時代をつくっていくかどうかは分かりません。ただ幕の内弁当や日本に憧れて仕事をしたのではないかと思われるオランダ人の日本文化に対する造詣の深さを高く評価します。この作品は開けた時にも非常に快感を覚えます。工芸品は持ったときの快感がないといけないと思うので、そういう点で安心して皆さんにご推薦できます。
 また長崎の出島以来のオランダと日本の漆を通じた新しい動きが見えてくるように思います。オランダと日本には、不思議な、切っても切れない関係があります。ライデン大学の日本語学部は日本文化の研究において世界一で、西洋人から見た日本人像に関する研究成果を多く集めています。これが見事なもので、例えば日本で言う「無くて七癖」も、よその国から見ると良い癖として捉えられることが多いことに気付かされます。この作品では両国の文化が交わり一緒になって漆の箱を作ったという点でつながっていますし、今後、それ以外の点でも大いにつながる可能性が期待できることが、このコンペの大きな意味になるのではないかと思います。

大西 ───── 次に、前先生より「ICHIMATSU」についてコメントをお願いします。

─────デザイン部門銀賞の「ICHIMATSU」についてお話しします。市松模様は正方形が縦横に連続する白黒が一般的ですが、この作品では不規則なものです。この作品で工夫されているのは、6枚組になっており、それぞれ赤色、洗朱色、弁柄色、黄色、水色、白色の6色の漆でランダムに塗り分けた市松模様が施されているところです。作品の名前が「ICHIMATSU」であるのは、恐らく普通の市松ではなく、崩し市松のようになっているためだと思います。非常にシンプルで使いやすく、目で見ても、実際に盛り付けても楽しめることを意図して作られたものだと思います。
 漆の特徴は、表面の光やつやが非常に柔らかいこと、そして塗料自体がつつましやかで奥ゆかしいことなどで、漆には独特の美しさがあります。この漆器はこの時点では塗り上がった状態ですが、先ほど大西先生からお話のあった根来塗のように、将来、人の手で使われていく過程で手ずれの味わいなどが加わって変化し、魅力が出てくると思います。使われてきた時間の流れに共感するのは日本人独特の感性ですが、漆器は使う人の手によって新しい命が吹き込まれるものです。非常にシンプルで素晴らしい作品だと思います。

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