Discussion
審査講評(3)

大賞作品の講評


いのち
Life
H22×W43×D42
2017

大西 ───── 後ほど質問等も十分受け付けたいと思いますが、これから賞の審査に当たられた審査員の方々からお話を頂きます。私もその一人として、まず大賞の作品に対してコメントしたいと思います。大賞は1点に絞らなくてはならないのですが、今回の大賞は小椰(おなぎ)真弓さんの「いのち」です。小椰さんは2人のお子さんの子育てを終えた38歳の女性で、クラフト分野でもご活躍されており、以前に日本クラフト展大賞を受賞されたご経験もありますし、この金沢の国際漆展・石川にも毎回出品していて、大賞ではありませんが、受賞のご経験もある方です。
作品は非常に動きのある乾漆の、これは蓋物の一種と考えていいと思います。やはり漆の基本は器から発しているので、どうしても器という概念が強くわれわれを支配していますが、それは決して悪いことではありませんし、大切なことであろうかと思います。小椰さんもそれを踏まえた作品づくりをされていますが、下の身の方は木をくり抜いて作られており、それもただ器としてのくり方だけでなく、蓋を取った段階でも、立体感が木の質感と同時に強く表現されています。
上の蓋は乾漆なのですが、皆さんもよくご存じのとおり、乾漆は自由にどのような形にもできるという特質があります。今はグローバル化の時代ですが、国によって湿度と温度がみんな違います。そうした場合に適応できるものとして、乾漆は大変合理性を持っています。急に湿度の低いところに行くと、あるいはその逆でも、木を胎に使っている場合は(温度の変化により)形がかわります。私自身も最近は外国との関係が増えていますが、送るにはやはり乾漆が良いと思っています。小椰さんも乾漆の特質を十分理解されて、その自由性をフルに生かしていると言ってよいと思います。
この作品のテーマは人間の内面、心に関係する心的な表現といいますか、心に受けたものを形化することに専念されたということだと思っています。そして、黒という色の魅力は皆さんもよくご存じのところです。これは磨いて仕上げた黒で、呂色磨きという手法が用いられています。そういうところを主体とした表現であり、それでいて非常にゆったりとした心の働き、あるいは自然との融合といったものを表現したいというお気持ちが感じられました。小椰さんは千葉県香取市の方で、昨日の夕方に入賞が決まってご連絡したので、それからこちらに来るのも難しいですから、今日はおみえになっていませんが、素晴らしい作品だと思います。
それでは、山田節子さんにもコメントを頂きたいと思います。よろしくお願いします。

山田 ───── 今、大西先生からお話があったこの作品ですが、会場に入ったときから他の作品とは少し違う、生き物のような力を持っている塗り物があるなと思ったのです。この呂色仕上げの美しさに思わず触って、蓋を取ってみると、裏側が赤に塗られていました。黒と赤という漆の基本です。さらに桂の木の盤は真ん中がへこんでいて、木の持っている性格を本当に美しく削り出しており、そして後ろはきれいな球体になっているということで、非常に宇宙感のある不思議な作品だということで、最初から目を奪われました。
また、この作品には「いのち」というタイトルが付いています。なおかつ、小椰さんにはお子さんがいらっしゃって、何か生命を誕生させていく子宮体のような、非常に宇宙感のある美しい作品だと思いました。もう絶対にこれだなという感じで、最初から見ていました。それぐらい今までの漆作品とは少し違った、非常に生命力を持った、生き生きとした蓋物という感じがしました。
次に思ったのは、やはり蓋物であるだけに、果たしてこれを一度使ってみたら、どういうことになるのだろうかということです。小椰さんはちょうど深く彫り込んだところを水が流れ込む場、そして下の盤を宇宙と書いていらっしゃるのですが、これがまた見事に表れていて、果たしてここに何を盛って人を驚かせてみたいか、もてなしてみたいかという思いが審査をしている最中に何度も心の中に去来する、大賞にふさわしい作品だと感じました。
この作品は女性的でありながら、非常に男性的でもあるのです。私は世の中には女性的な男性、男性的な女性、そして昔ながらの男性的な男性、女性的な女性の4つ性があると思っています。そのような中で小椰さんは男性を包含しながら、女性らしい表現を見事に自分の性から生み出しており、素晴らしい作品が大賞に選ばれたと思います。昨日は本当にうれしい思いで、審査に参加させていただきました。皆さんも後でぜひふたを取ったときの喜び、それから有機体の線の流れの美しさに直接触れていただきたいと思います。不思議な形を見事に表現されていて、これからどのような仕事をされていくのか、すごく楽しみに思って拝見しました。可能性を秘めた漆作品が大賞に選ばれたことで、この国際漆展・石川がますます世界に広がっていってくれるのではないかと思いました。

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