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審査講評(4)

金賞作品の講評

花を紡ぐ,Weaving Flowers
花を紡ぐ
Weaving Flowers
H5.5×W34×D34
2016
Deep Sea
Deep Sea
H5.3×W65.3×D25.3
2017

大西 ───── ありがとうございました。引き続き、順を追って各先生方からコメントを頂きたいと思います。
次はアート部門の金賞に輝いた、向かって右端にある皿状の作品です。これは黒木紗世さんの「花を紡ぐ」です。素材としては錫粉を使った蒔絵になっています。非常に繊細さと優雅さを兼ね備え、しかも色彩としては黒と錫粉の質感が非常に現代的な印象を与えてくれる、非常にさわやかな作品です。コメントは田中信行さんにお願いします。よろしくお願いします。

田中 ───── 今回はデザイン部門に対してアート部門の作品が比較的多く、さらに言うと造形的な作品が多かったのです。その中でもグランプリ(大賞)を取った作品は抽象的な、一見よくあるような形をしているわけです。漆で抽象的というと、今までに見慣れたような感があるのですが、中を開くと木の胎があって、そこに非常に温かさが感じられ、生命を慈しむような造形ということで、審査員全員が納得する作品でした。
その作品とグランプリを競ったのが、この黒木さんの作品です。実はどちらを大賞にするかで意見が分かれて、最終的には民主的に多数決で決められたのですけれども、黒木さんの作品は伝統的な蒔絵、主に引っかきです。錫粉を使って、極めて現代的な感性を表しています。これはもう誰が見ても、すぐに分かると思います。
そして、本当に緻密な作業をしています。これは恐らく失敗が許されない作業なのですが、本当に上手です。私は黒木さんが金沢卯辰山工芸工房に在籍していたころから見ていて、どんどん上手になっていっていると思って感心していましたが、この出品作はまさに代表作のような感じで、技法的にも本当にうまくて、それでなおかつ見せ切っているところは審査員全員が評価していました。
漆をやっている方々は分かるかもしれませんが、蒔絵というと、どうしても固定概念としての蒔絵のイメージというものがあるのです。ですから、その技法を使って現代的な仕事をされている方は多いようで少ないかもしれません。それは歴史がありすぎるが故にです。正倉院を模範にしたり、松田権六であったり、やはりどこかそこから抜け切れないのです。しかし、黒木さんの作品は、技法的には限られているのですけれども、表し方としては非常に女性らしいといいますか、表情豊かな表現がされています。女性でこのような仕事をしている方というと、輪島の山口浩美さんが浮かびますが、彼女と同じくらいのクオリティを持っている表現ではないかと思っており、今後に期待します。
さらに言えば、この作品は塗面もマットで対照的な、本当に素材をうまく使って表現していると思いますが、形に対する加飾表現として、小口はもう1mm薄ければなと感じました。あるいは少し斜めに入れるなど、形に対しての関係はもう少し考えてもいいのではないかと思った次第です。また、この作品の蒔絵のマットな表情は飾るにはいいのですが、今後は使うときのことを考えて、梨地でも漆でもいいので、透ける程度で表面に薄く塗りをほどこす表現を試みてもいいのではないかと、個人的には思いました。

大西 ───── 素晴らしいコメントだと思います。次は山村真一さんに、デザイン部門の金賞となった杉谷さんの「Deep Sea」についてコメントをよろしくお願いします。

山村真 ──── グランプリと二つの金賞の中で、ただ一人の男性の作品なのですが、これは栗の素材から削り出した、長さ65cmの堂々たる長皿です。近づいてよく見ると分かりますが、これは全て数種類のノミだけで削り出しており、そのノミの跡もそのまま上手に生かされています。このノミ跡が65cmいっぱいに広がっていくとともに、栗の木の軽くもなく重くもない、程良い重量感があり、さらに周りのきれいに立ち上がった自然なカーブは、よくある機械加工で作り出される均一な商品とは全く違う、新しい仕上がりです。形は非常にシンプルな長皿ですが、よく見ると、全体をまとめている側面の高台から上がってくるカーブや、上縁部分から皿の内部にきれいに流れ込むカーブ、そして長皿の四隅の美しいアールといいますか、自然に出来上がったコーナーの丸い形からものすごい力を感じます。
タイトルは「Deep Sea」で、深い海というのでしょうか、仕上がりは黒の拭き漆、あるいは青漆です。あまり光り過ぎず、ほどほどに光るように、ノミの跡が表現できるちょうど良い程合いを見計らって上手に仕上げています。この長皿に何を盛ろうかというのを、ぜひ見ながら考えていただけるといいのですが、お料理を盛ってもいいでしょうし、お寿司を盛ってもいいでしょうし、これを囲んでみんなでわいわいと飲むのも楽しそうです。ずっと代々使えそうな長皿で、人工的な加飾は全くないのですが、ノミの掘り跡とおとなしい漆の黒が実にきれいにマッチした、素晴らしい作品でした。
この上位3作品は随分甲乙付け難く、長い議論を経て金賞とグランプリが選ばれていったわけですが、一度見たら、いつまでも忘れられないようなものでした。中でもこの「Deep Sea」は手に持ってみると、手から伝わってくる温かさがそのまま感じられる素晴らしい作品です。

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