Discussion
審査講評(7)

審査員特別賞作品の講評

漆ヴァイオリン, Urushi Varnished Violin
大西 長利 賞
漆ヴァイオリン
Urushi Varnished Violin
H10×W21×D60
2016
蒔絵カフス, Makie Cuff Links
川上 元美 賞
蒔絵カフス
Makie Cuff Links
H2.1×W1.5×D1.5
2017
磁胎漆器カップ, Jitai Lacquer Ware Cup
山村 真一 賞
磁胎漆器カップ
Jitai Lacquer Ware Cup
H6.5×W9×D9
2017
ストロマトライト, Stromatolite<br />
山田 節子 賞
ストロマトライト
Stromatolite
H30×W90×D22
2015
波濤盤, Hatouban
内野 薫 賞
波濤盤
Hatouban
H3.7×W46.3×D24.6
2017
変化-8, Wandel-8 (Transition-8)
田中 信行 賞
変化-8
Wandel-8 (Transition-8)
H14.4×W40.2×D40.2
2016
Urushi Mode
山村 慎哉 賞
Urushi Mode
H104×W64×D20
2015

大西 ───── ありがとうございます。以上で奨励賞が終わりました。ここからは審査員特別賞ということで、各先生方にコメントをお願いすることになります。
最初に私の審査員特別賞ですが、東京都在住の朝川千鏡さんの「漆ヴァイオリン」です。皆さんもよくご存じのヴァイオリンですが、今回は2人の方が挑戦されていて、比べると面白いと思います。
作者の朝川さんはもともと北海道出身で、ヴァイオリンを作るための木に関心をお持ちです。制作の途中で私も多少アドバイスをしたことがありますが、非常に音楽が好きで、特にヴァイオリンに興味があるということで、ただ、ヴァイオリンは音に関係してくるので、必ずしも漆が良いということにはなりません。それが根本的にあるので、これは見かけだけのヴァイオリンというのでしょうか、飾りヴァイオリンと言ってもいいのかもしれません。
桜の木を使ってヴァイオリンのスタイル、寸法を正確に写し取り、それを削ってつなぎ合わせて、接着剤には膠を使っています。朝川さんは用材による音の違いを非常に研究されていて、ヴァイオリンはどんな木でも固ければいいというわけではないようです。普通、ヨーロッパではヴァイオリンには桜の木を使うのですが、桜の木でも成長した場所によって、例えば雪の中で成長した木など、それぞれ性質が違ってきて、それが微妙な音に影響してきます。それを研究されている世界的な研究家のナジバリーさんに私はお目にかかったことがあり、お話も伺ったのですが、非常に奥の深い音の世界ですから、われわれが外から見ただけでは、ヴァイオリンとしての良さや価値の高さは早計には申し上げられません。ただし、それは抜きにして、朝川さんはヴァイオリンに非常に熱心で、情熱を燃やし、それを作り上げていっています。
やはり漆を使う方ですから、漆というものの質感を表現し、かつ、音が良ければそれに越したことはないのですが、その研究はなかなか奥の深いものです。朝川さんの作品は基本にのっとりつつ、部分、部分で音に影響しないようなところに螺鈿や蒔絵を象嵌的に施し、あるいは象嵌したものの上にさらに蒔絵をするという手法を取っています。正倉院にある有名な琵琶にも漆塗りのものがありますし、螺鈿を象嵌したもの、あるいは金属の象嵌が施されたものも名品が見受けられます。そのような模様を通した音の世界の面白さがテーマになった作品で、これも漆を通した一つの楽器の楽しさという世界であり、私は大いにこのような方々が増えてくることを願って推薦しました。
次に川上元美賞に選ばれた針谷崇之さんの「蒔絵カフス」について、川上先生からコメントをお願いしいます。

川上 ───── 実はこの近く、加賀市の柴山潟のほとりに「雪は天から送られた手紙である」という言葉で有名な雪博士の中谷宇吉郎さんを記念した中谷宇吉郎雪の科学館があり、そこでも雪や氷床にちなんだデザインコンペを20年間ぐらい続けています。私はそのコンペの審査に参加させていただき、もう何年前になりましょうか、そのときにこの作品の原型に当たるものといいますか、蒔絵のいろいろな技術を閉じ込めた小さなアクセサリー、オブジェと出会いました。
これが印象的で、現代生活に取り入れられるものを意識して、平蒔絵や梨子地蒔絵、螺鈿、象嵌などの伝統技を用いて小宇宙に閉じ込めた、大変魅力的な商品だったのですが、時を経て、東京にはファッションや工芸品絡みのフェアがありますけれども、その中で偶然、その進化形を見かけました。カフスボタンやブローチなど、いろいろなものに展開されていて、飽きずに新しい領域における漆塗りの可能性を求める努力といいますか、ぶれずに一途に取り組んでおられて、これは大変素晴らしいと思っていました。そしてこのたび、今度は祝いの席等で使用することを想定したカフスに出会ったわけです。
その完成度と同時に、この作品は贈る気持ちを閉じ込めた、デザインとして贈るパッケージといいましょうか、そこまできちんと作って、大変モダンな良いものにまとまっています。文化が変わるとともに、こういうものをどう届けるか、卑近な言葉で言えば、どういうところに市場があるかということを追い求めながらここまで至ってきたということで、まだ先はありますけれども、終着点の一つの例ではないかと思っています。技術もだんだん進化していますし、なかなか素晴らしいと思って、審査員特別賞を差し上げることにしました。

大西 ───── ありがとうございました。次に山村真一賞に選ばれた冨田高行さんの「磁胎漆器カップ」について、山村先生からコメントをお願いします。

山村真 ──── 今回、磁胎漆器(陶胎漆器)という磁器に漆を施した作品が2点出展されました。片方は中国の方の作品で、もう片方がこちらの冨田さんの作品です。日本では徳川吉宗のころにかなり陶胎漆器が推奨され、一時、すごく花開いた時期があったのですが、最近は美濃地区や名古屋といった地域でも茶道具として陶胎漆器がよく使われています。
冨田さんの作品は5組の湯飲みで、焼き物だと本当にかちかちに焼き締めて、その上に漆をかける、あるいは釉薬の上にさらに漆をかけたりするのですが、この作品は焼き締めの温度をわざと200度ほど低く設定して、あまりきつく焼き締まらない状態で、漆がぐっと奥まで食い込んで離れないような工夫がされています。これは初めてではないかと思いました。
今は漆も技術がすごく進化して、釉薬、あるいは上絵付けの上にさらに漆をかけても取れないような技法も随分見られるようになってきたわけですが、今回出品された磁胎漆器の茶碗の類いもこの湯飲みも、陶胎漆器の表情を漆で全部埋め尽くさずに上手に見せており、本当によく吟味された上で作られた作品だと思います。塗り過ぎて、持つと少し重いかなと思ったら磁器であったという話も聞くぐらいですが、これは磁器の生地を少しずつ表で表現しながら、中はしっかり漆で塗り固められています。そして当然、材質が磁器ですから、持ったときに掌(たなごころ)にちょうど程良い重さを感じられるわけです。例えば木製の湯飲みとは違って、重くはないけれど少しずしっと来る、これでゆったりとお茶やお酒を飲んだらうまいだろうなという仕上がりです。また、飲み口も非常に精度良く薄口に仕上げられていて、実際に使うにも飲みやすい、かなり工夫された美しい器でした。
ぜひ展示会でご覧いただくと、不思議な磁胎漆器の面白さが見られると思います。器だけではなく、皆さんの周りにはいろいろな素材のものがありますから、いろいろなもので漆加工を挑戦されると、このような楽しい作品もできてくるのではないかと思わせる一品でした。

大西 ───── ありがとうございました。次に山田節子賞に選ばれた、齋藤みどりさんの「ストロマトライト」です。山田節子さんにコメントをお願いします。

山田 ───── これはまだ20代半ばの女性の作品です。タイトルの「ストロマトライト」とは非常に難しい言葉なのですが、光合成する能力のある細菌や藻が海の底に堆積していって作り出される、不可思議な文様のことだそうです。この作品はそれを表現しているわけです。漆の縮みを見事に使い込んで、全く新しい未知の世界に入っていった作品だと思うのですが、私はこの作品を拝見した瞬間に、この自由さと未来性に感激したとともに、角偉三郎さんがかつて話してくださったお話を思い出しました。
戦後の日本の工芸を復興していくためにバーナード・リーチが日本に召喚されて、彼が漆や陶器、工芸の産地を巡回するということが、1950年代初頭にあったのだそうです。そのときに輪島を案内されたのが角偉三郎さんだったのですが、いろいろな蒔絵師のところやさまざまな技術を持った漆の表現をするところをいくら案内しても、なかなかバーナード・リーチがいいと言わない。それで次はどうか、次はどうかと歩いていくうちに、ひょっと筆洗い桶を見たとき、バーナード・リーチが「何と美しいのだ」と言ったと。そのときに角偉三郎さんは、自分は今まで一体何をしてきたのだろうと考え、そこからもう一度新しい漆の可能性を発見すべきではないかということで、例の漆の中に砂を入れた作品を日展に出展されました。当時、それは漆工芸ではないと言われて退けられたのですが、それから角偉三郎さんはそういうところに出品することを一切やめて、新しい可能性に挑戦しはじめたといいます。そういうことがきっかけであったというお話を、本当に亡くなるわずか前に、金沢の若い人たちと一緒にやっている勉強会でお話ししてくださいました。
それをつくづくと思い出しながら、若い女性がこのような挑戦の仕方をしてくださったということで、ここから次の時代の新しい漆の可能性が生まれていくのではないかと思いました。コンペというものが持っている、未来に向かっていく可能性に見事に挑戦してくださった仕事であったということで、楽しく、うれしく、ぜひにということで山田節子賞に選ばせていただきました。これからの活躍を楽しみにしながら、どのような表現が生まれてくるのか、そして今まで漆を一生懸命やってきた皆さまにも何か新しい呼び掛けをされている作品の一つではないかと感じています。
今回は本当に良い審査会で、昨日は審査員の皆さんと金沢ならではのおいしいお寿司も食べさせていただき、うれしく思った次第です。これからの活躍に期待しています。

大西 ───── ありがとうございました。次は内野薫賞に選ばれた藤野靖男さんの「波濤盤」です。本作は伝統技術の非常に緻密な表現になっている作品の一つで、内野さんにコメントをよろしくお願いします。

内野 ───── タイトルは「波濤盤」、つまり波の器ということで、檜でできた四角い盤です。一木を削り出して、普通の盤より少し深めなのですが、布着せ本堅地技法で仕上げています。そして、上塗をした後に炭で研ぎ、胴摺りをして、蒔地をした上に波濤(波)が描かれています。この緻密さはご覧いただければお分かりになると思うのですが、柴田是真や高野松山の青海波塗のような、大変きれいな波です。これは何日かかけて手前から少しずつ描いていくわけです。波頭の美しさも素晴らしく、しかもそれは普通の波ではありません。当初は漆の合わせ方が良くて、きちんと一本一本の線が立っているのかと思いましたが、実はそうではなくて、これは黒の蒔絵なのです。
黒色の部分には工業用チタンの粉末が使われており、金色の部分は金粉です。最近は昔からの鉄粉やアルミの粉をはるかにしのぐ強固な硬い粉末ができており、自動車等に使われていますが、それらはアトマイズ法といって、噴射により細かい粒子を作るという製造方法によって作られます。それも水や遠心力ではなく、ガスで作ると一番真円に近い粒子ができるといいます。金粉や銀粉の号数で言うと、細かいものは1号から8号ぐらいまで、粗いものだとそれ以上から20号ぐらいまでです。その1号から8号までの粉が混ざったものを、まくのではなくて、掃きかけるわけです。炭粉をざあっと流してしまうようなまき方で、そして粉固めとして全体に薄く黒い蝋瀬漆(ろせうるし)を塗っています。この波の粉末の色自体はプラチナのような銀掛かった色です。そして1号のものも入っていますから、とても粉には見えません。細くてきれいな線が出ています。高野松山のように引きベラで引いたようにきちんと上がって見えるのですが、これは全部描いてあります。
粉固めをした後はどのようにして仕上げるのかというと、やはりチタン合金なので固いですから、バフにかけて磨いてしまうのだそうです。普通はそのようなことをしたら、模様が全部取れてしまいますが、それがきれいに光って見えるということで、ぜひ新しい蒔絵としてご覧いただきたいと思います。
波自体は非常によく描けているものの、それほど新しい絵ではないと思いますが、これがお椀等の他の物に付いていたら、すごく良いと思います。なおかつ普通の蒔絵より丈夫だということで、盤自体の現代的な斬新さと、波自体は古いのですが、すごく新しい蒔絵であるということで推しました。

大西 ───── ありがとうございます。次は田中信行賞に選ばれた、ドイツのガーブラー・ヘリさんの「変化-8」という哲学的な題名の作品です。田中信行さんにコメントをお願いします。

田中 ───── 今回、部門がアート部門とデザイン部門の二つに分かれていましたが、本人はアートとして出していても、これはデザインではないかと思われるが出品作品が幾つかありました。ですから、何をアートと捉え、また、デザインをどう捉えるかというのが隠れテーマで、審査員の間でも議論になったわけです。産業プロダクトに漆を活用しているようなものは極めて分かりやすいのですが、そのような中で私がなぜあえてこの作品を選んだかというと、これには一種の問題提起的な意味があります。
漆を造形的に使う作品は多く出品されており、金沢美術工芸大学の教え子たちも大勢いて、たくさんの力作がありました。あまり身近なものを個人的に推薦すると誤解を招くので、良い作品が多かったのですが、あえてそこは遠慮してこの作品を選んでいるのですけれども、この作品は作者本人はアートと言っているものの、デザインでも捉えられると思っています。造形的にはすごくシンプルで、形態的にも回転体であり、実は乾漆で作られていて中が空洞です。真ん中に小さな穴が空いていて、そこからのぞき込むようなミステリアスな作品なのですが、アート的に捉えると、アニッシュ・カプーアという空洞・虚をテーマとしている現代美術作家がいます。そのようなスケール感でいくと全く太刀打ちできないのですが、造形と漆を考えると、どうしても漆を使う必然性が問われるわけです。
これは形状だけを見ていくと、多分、プロダクト的には他の磁器に置き換えたりすることはできるのだと思います。ただ、よく実物を見ると、漆を塗り込んでいく精神的な意味合いが感じられます。非常にシンプルな形状の中に哲学的なものがあって、ドイツ人ということもあるのもしれませんが、日本人の禅の世界にも通じるような精神的な世界観が、漆を塗って作品ができていくことで成立していると思います。大きさもそれほど大きくなくて、グランプリの作品と同じぐらいですが、これをどんどんアートとして展開していくと、もっと大きくなったりするのでしょう。恐らく本人はそのようなことを考えていないと思うのですが、その辺の程良く収まるバランス具合が非常に良いと思いました。すごく目新しいというわけではないのですが、やはり何か漆を感じました。
作者の方は私より少し上のキャリアのある方で、輪島で勉強されたようです。その辺も背景に多少あるかもしれませんが、作品が成立する位置加減ですね。これは数が幾つかできれば、恐らく再生産できると思うのです。ですから、これをあえてデザインで出してもよかったのではないかと思います。そうすると、これはインターナショナルなインテリアオブジェクトとして非常にちょうどよく収まります。美しい赤い花でも真ん中の穴にちょっと飾るだけで、恐らくがらっと存在が変わると思うのです。そういう意味でもアート性とデザイン性を有しており、今はまさにそういうものがある意味では求められているのではないかと考えています。ありきたりの機能だけを考えたデザインは誰も求めてないのではないかということで、本人の考え方、あるいは素材との関係などによっては器でもアートたり得るという意味で、これを審査員特別賞にあえて選ばせていただきました。

大西 ───── ありがとうございました。最後に山村慎哉賞に選ばれた、パク・ドゥネゲンさんの「Urushi Mode」というデザイン部門の作品です。コメントをお願いします。

山村慎 ──── 自分の賞を付けるというのは非常におこがましいのですが、私は加飾が専門で、加飾で良い作品もあったので、そちらにしようかなとも思ったのですけれども、あえてこの作品を選ばせていただきました。作者は韓国の方ですが、現在は日本に住んでいらっしゃるようです。年齢は40代前半ということで、他に繊維に漆を塗った作品はなかったので、ある意味目立っていたかと思います。
ご存じのように、漆と繊維というのは乾漆ではよく使われますが、乾漆の場合、普通は麻布に塗ります。それには理由があって、シルクに漆を塗ると染み込んでいって、いずれ割れてしまう心配が実はあるわけです。ただ、この作品をよく見ると、白くしわが入っているので、中までは染み込んでいないのではないかと個人的には思いますが、本人の説明によると、漆の防腐性や抗菌性といった漆の持っている性質を繊維に合わせることを目的としたようです。それによって夏場は湿度を防ぎ、虫によるダメージを受けないようにするなど、そういったことが可能になるのではないかということです。また、布の上に漆を1回塗ると、少し固くなります。その固くなった性質をうまく利用すると、普通の布とは少し違う縫製方法が可能になるということも書いてありました。
韓国にはポジャギという、シルクその他の繊維で作る非常にきれいな布があります。韓国人ならではの視点で布と漆を合わせたという点も、評価できると感じています。若干透けがあるのでシルエットがきれいですから、ぜひ展覧会でご高覧いただければと思います。

大西 ───── ありがとうございます。受賞作品と各審査員賞の解説を通して、皆さんも意外な発見があったでしょうし、もう少し深く聞いてみたいこともあって、いろいろ発想が生まれたのではないかと思います。漆には非常に長い歴史がありますから、非常に複雑で高度な技術もあり、その技術を見せることで神秘性等を表現することも漆独自の世界かもしれませんし、人によっては漆の質感のシンプルな良さで十分だという表現の方も大勢いらっしゃるわけです。漆は1万年以上の長い歴史を背負っており、その過程でいかに漆が大切な素材として考えられてきたか、捉えられてきたかということです。また、先ほどのロシアの作品は漆以外の樹脂も使ってきたという長い伝統があるのではないかと想像されます。そういったいろいろなことが、漆のこれからの未来を考える上で非常に楽しみといいますか、複雑といいますか、われわれは新しい時代の先端にいますから、新しい漆の歴史を刻むことにもなるわけですし、それには挑戦が必要だろうと思います。従って、漆は挑戦するには十分な素材と言えます。今、社会もいろいろな可能性を追求はしていますが、だんだん生きにくくなってきて、地球は終わるのではないかという妄想まで出てきそうな時代になってきています。そのような中で、漆ほど優しい素材はないというのが私の持論ですから、漆がいかに人類にとって大切かをこのような機会に大いにアピールしていくべきではないかと思います。
それでは、審査員の先生方もこれから漆に期待するいろいろな思いをお持ちだろうと思いますから、質疑応答に移る前に一言ずつお願いします。

川上 ───── これからますます持続可能な社会を求める時代といいましょうか、その中でやはり漆がいかに自然から取れるもので、人にやさしい、優れた、歴史的にも古い素材であるか、そして人に近しい素材であるかということだと思います。
このコンペを機会に作家の皆さんが漆の作品を作ってアピールされて、いろいろ切磋琢磨されるわけですが、これをもう一度、もっと世間一般に広げていくということを考えたいと思います。今、漆がこのようなものに使われているということ、このような状況だということについて、一般的に広く見ると、まだまだPRが足りないと思うのです。金沢は漆が一番栄えた、文化の高い地域ですが、もっと広く日本全国に漆芸作家の方がいらっしゃいますし、また、それが世界に打って出ていくといいますか、打ち寄せていくということで、今回のロシアの作品などを見ても、共有する意味というものが感じられます。そして、その中からいろいろな違いを見つけ出し、そこで日本の良さも発見するという関係性を見いだせるのが、やはり国際展の良いところだと思っているので、PRも大変必要ではないかという気がしています。

山村真 ───── 今回で審査員を務めるのは3回目なのですが、今回の審査では特に素材の幅の広さが最も感じられました。ガラスや布、シルク、チタン、鉄、カーボンファイバー、螺鈿、ピーナッツなど、本当に多様な素材をそれぞれ漆という伝統的な技術にいかにまとめ上げていくかというのが見られた審査会でした。
また、参加国も増えてきましたし、今回は若い元気な作家ともう長年この漆の世界でキャリアを積んだベテラン作家が入り交じり、本当に最後の賞を決めるぎりぎりのところまで競い合って、漆は本当に幅が広いものであると感じました。同時に、これからは今までの高度成長の文明化社会からいよいよ文化の社会に向かっていく時代で、もうそのようなきらいが随分見えはじめています。クールジャパンなど、日本を見直し、日本から学ぼうという話が世界中に広がっていっていますが、特に金沢はまさしく多様な文化の集積地ということで、京都や江戸も含めて、新たに伝統の深さと幅広い社会の窓口を持った時代がやって来ると、今回の漆展の審査を通して強く感じました。また3年後にはこの国際漆展がやって来るわけですが、そのときはぜひ新しいテーマでチャレンジしていただきたいと思います。

山田 ───── 私は使い手と作り手の間に入って、長年、仕事をしてきました。実際に漆は最近使われにくくなっている素材の一つですが、これほど魅力的なものはないと思っており、今回は新しい、使ってみたくなるような作品がたくさん出てきた、可能性のあるコンペであったと感じています。作り手の皆さまには、このような発表の場を使って新しい可能性を表現していただきながら、そのスピリッツをもって、いかにお客さまに少しでも多く使ってもらえるようなものに表現し直し、市場を広めていくかということが期待されます。今回は本当に一つ一つの作品がぜひ使いたいと思うようなもので、そういった作品が出てきたことに未来を感じながら、次の可能性を楽しみにしたいと思っています。

内野 ───── 初めての審査で戸惑うことも多々ありましたが、前回からアート部門とデザイン部門に分かれての募集ということで、アート部門は他の展覧会も多くあって、造形的なものや彫刻的なものを崩したような作品は目が慣れているということもあるのでしょうけれども、割と器に近い形の作品に点が多く集まったような気がしています。当然、新しい感性や新しい生活への提案といったことも考慮されてはいるのですが、やはり同じ作品に得点が集まるというのは、どこかに漆に対する期待感という共通のものがあったのではないかと思います。
ただ、デザイン部門では審査基準として生産性と流通性も加味されるのですが、単価計算の話があまりなかったように感じています。アートであれば1000万円でも2000万円でもいいのですが、やはりデザイン部門で商品として開発していくには、そのまま会社へ持っていけるぐらいのものも欲しかったということで、もう少しそういうところまで突っ込んでもよかったのではないかと思っています。

田中 ───── 漆芸がデザイン的に行われようが、アートという名の下でやろうが、恐らく今は漆芸という大きな枠としての文化遺産、歴史的遺産が、海外も含めて日本の中でますます大事になっていくと思っています。もちろん具体的な造形性や表現は前提です。産業自体は非常に厳しいのですが、漆が長い歴史を持っていて、自然素材で、それを通して関わってきた物のありようということで言うと、技術の継承ももちろん大事で、それがなければ表現もできないのですけれども、芸術性は継承できない部分もありますから、やはり両者が重要となります。さらに漆芸という日本の文化遺産としての総体をどう捉えて、自分の背景に抱えながら、それを海外にも語っていくかというのは非常に深いものがあります。
いずれにしても個人の活動やこの展覧会も含め、アートやデザインといった領域ではなく、漆がこれからますます世界に広まっていく中で、実際に秋にもアメリカで展覧会が予定されていますし、海外でいろいろな漆の展覧会が求められているわけですが、それは何なのかということをこの展覧会、あるいは個人でも見つめていくことが大事ではないかと感じています。

山村慎 ──── 国際漆展は今回で11回目になりました。国際的な漆のコンペが世界でもこの展覧会しかないということで、ある意味で非常にありがたい展覧会だと考えています。11回本当によく続いてきました。
ただ、漆というのはまだまだいろいろなものがあって、ここに出てきていない素晴らしいものがたくさんあるというのも事実だと思うのです。この唯一の漆のコンペにもっといろいろな作品が出てきて、活気付いていければ本当にいいなと思っており、それは県や市だけでなく、私たち作り手も一緒に考えて取り組んでいかなければいけないのではないかと思っています。今回、作品もいろいろなところから来ましたが、ぜひ次回以降はもっと発展するように、みんなで協力して進めていければと考えています。

大西 ───── ありがとうございます。だいぶ時間も経過しましたが、残された時間を有効に生かして、この機会に質問を頂きたいと思います。2・3人ぐらいになるかと思いますが、質問を希望される方はどうぞ挙手をお願いします。

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