Discussion
審査講評(5)
銀賞作品の講評
へいわののりもの(おんなのこ)
Vehicle of Peace (Girl)
H103×W50×D50
2017
Ichimatsu 3 Colors
H16×W40×D20
2017
大西 ───── ありがとうございました。次は銀賞です。
一つ目は金沢市内で活躍中の伊能一三さんの作品で、「へいわののりもの(おんなのこ)」です。この伊能さんの作品は、恐らく自分のお子さんをモデルにされた彫刻的な作品ですが、普段、お子さんを温かい目で見つめていらっしゃる実感というものを立体の表現の中にふと感じさせるような、それが静かな動きの中に見事に表現されています。
金箔を貼った部分と黒い漆で塗られた部分があり、立体でありながらも、金と漆の黒の二つの色調の対応が見られる構成となっています。これは漆でなければなかなか伝えることのできない素材感といいますか、質感であり、作者の愛情を込めた表現で、ちょっとした体の動きを見事に捉えています。子どもの持つムーブメントというのでしょうか、心の動きがシンプルな形の中に感じ取れて、非常にリアルに作られたものとは違って、込められたものが捉えられています。
普段から伊能さんはこのような作品をお作りになって、いろいろなところに発表されているようですが、いずれも伊能さんの作家としての目、心が、清々しい流れ、生き生きとした流れの中で、それを捉えていらっしゃいます。ともすれば普通の人形のようになってしまうのですが、さりとてリアリズムではなく、さらにそれに漆という素材、乾漆というテクニックが見事に融合した、かわいらしい好感の持てる作品ではないかと思います。思わず会話を交わせるような微笑みが感じ取れます。
続いて、銀賞の二つ目は吉田宏之さんの「Ichimatsu 3 Colors」という、お皿がセットになっている作品です。吉田さんには毎回挑戦していただいていますが、その作品はどんどん素晴らしくまとまってきているのではないかと感じており、われわれも大いに期待しています。それでは川上先生、コメントをよろしくお願いします。
川上 ───── 今回、初めてこのコンペの審査に参加させていただきました。「Ichimatsu 3 Colors」はご覧のように四角を斜めに3枚ずらしながら重ねた形状を10段にした器で、市松模様に透漆で仕上げた作品ですが、このように積み重ねた状態では空気感があるといいますか、造形的にも量感があって、素晴らしい景色を生み出していると思います。また、同時に使うシーンを考えた場合に、これを一枚一枚テーブルの上にセッティングして、それも単なる四角や長方形ではなく、ぎざぎざした形ですから、その上に盛り付けるにしても、いろいろな楽しみや可能性が出てくるような気がしています。さらに、どのような組み合わせにするかにおいても、例えば非日常な食事の中で盛り付けるなど、いろいろな楽しみ方ができる重ね皿ではないかと思っています。
ただ、審査の過程で既視感があるという話があって、私は初めてなのでよく分からなかったのですが、確かに作品集などをひも解いて見ていくと、吉田さんはこのシリーズで結構いろいろな賞を取っていらっしゃるのです。それがやはり回を重ねるごとに良くなっていくように思っており、一つのテーマで積み上げていく、詰めていく努力は素晴らしいと感じました。
私も文様を塗って透漆にした器や椀物を30年間ぐらい使っていますが、透漆というのは使い込んでいるうちに透けてくるというのでしょうか、本当に長く親しむ技術であり、手法であり、塗り物ではないかと感じています。この市松模様は黒色と朱色と黄色で塗ってあるわけですが、これが粋でモダンなパターンであるとともに、時間系の中でだんだんしっとりしてくるのだろうということで、今の塗りたての生っぽさが10年ぐらいたつと、微妙な色の変わりなども表現されてくる、なかなか素晴らしい器であると思いました。