講評会

大賞受賞作品について

玉屋  ───── さて、前置きが長くなりましたが、それでは講評に入りたいと思います。審査員の皆さまから各入賞作品について、評価のポイントや感想などのコメントを頂きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
初めに大賞の作品、新井寛生さんの「乾漆蒔絵箱 夜梅」です。それでは大西先生、コメントをお願いいたします。
大西 皆さん、しばらくでございます。3年ぶりでございます。ようこそおいでくださいました。前回はちょうどコロナがはやり始めた頃でした。今回は、コロナは収まりつつありますが、世界のいろいろなことで騒々しい世の中になっております。
この展覧会も13回を迎えました。私も第1回から参加してまいりましたが、漆の国際展というのはそれまでなかったことです。それが石川県のご努力により可能になりました。われわれは、世界の人たちと漆について大いに語るチャンスができたことを大変喜びました。私は第1回の展覧会から審査にも関係してきましたが、皆さんのご努力によってだんだんと国際展にふさわしい内容になってきたと思っております。
しかし今は、ロシアによるウクライナ侵攻などいろいろなことが起こっています。ロシアという国は、漆の文化というか、塗りの文化というか、ビザンティン文化の流れですから非常に精神性の高い文化です。いわゆるキリスト教ですけれども、ビザンティンの精神文化を非常に継承しているわけです。特にドナウ川の流れに沿った文化は、シルクロードの終着駅のようなところに存在しているわけです。
ですから、私はロシアを非常に大事にしていて、ロシアの人たちが近年参加してくださるようになってきたのです。最初は1人でしたが、2人、3人と徐々に増えてきて喜んでいたのです。それが今回1人もいないのです。ボルガ川のほとりの文化が今回は入ってこないのです。まさにこれは今のいろいろな社会の動きを反映しているのだと思います。
塗り文化には奥の深いものがあります。ただ色を付けてデザインすればそれで終わりというものではありません。一回一回心を込めて塗っていきますから、心をとてもよく表します。ロシアのボルガ川のほとりにホフロマというものがあります。日本で言えばこけしに近い塗り文化です。その他にいろいろな塗り物があります。だから私は、あの辺りの人々が参加してくれると日本の漆との関係も改めて深まっていくと思って喜んでいたのですが、それがこういう状態になって誠に残念なのです。やはり何事も平和でないと、良い文化は生まれません。日本の塗り文化は、世界の塗り文化の中でも特に深い内容を持っております。
大賞の新井さんは今日はお見えになっていないようですが、この作品は伝統工芸の展覧会にもお出しになった作品のようです。典型的な伝統工芸の器という感じですが、これは形が同心円ではないので、形は乾漆で作っていらっしゃるのです。それにしても角が緩やかに取れていて、日本で培われてきた感性を十二分に凝縮した形になっております。これ以上やりようがないところまで追求されているようですが、非常に優しい塗りになっております。夜の雰囲気を出している作品です。本人もそうおっしゃっていますが、それが非常によく表現されております。滞りがないというのか、ところどころ、形の取り方に工夫があります。さらにその工夫が、あまり表に見えないように配慮していらっしゃいます。
この方は東京藝術大学で先生をしていらっしゃるようですが、文句の言いようのない作品です。本審査会で今回もいろいろと皆さんご意見をぶつけ合いまして、大賞はこれに落ち着きました。この作品の良さは、ぱっと見たら優しさと雰囲気を持っている点です。塗り文化の本当にいいところが出ています。

大賞 乾漆蒔絵箱 夜梅

大賞
乾漆蒔絵箱 夜梅
Kanshitsu Makie Box Ume Blossom
W28 × D23 × H12
新井 寛生
ARAI, Kansei (Japan)

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