上位入賞作品の講評
[大西]私の感想として、大賞・金賞等について述べたいと思いますが、先生方は私が言ったこととまた
違ったことを言っていただいても結構です。そういういろいろな意見が、そこにぶつけられることが案外大事だと思います。
目の前に黒い塗りが見えておりますが、この作品が大賞ですね(時の航行・井川健)。この作品はまれに見る単純さで、漆そのものというものが究極の形で
迫ってくるという感じでした。皆さんもお感じになると思いますが、私は、日本刀のあの美しさをもう一つの工芸の究極と見ています。それに近いものとして、
黒い漆の透明感が、完璧な形でそのフォルムと一体化しているのです。そこが文句なしに美しいという感想を持っております。もやもやとした情緒的な面の揺ら
ぎというものが一切ない。そこが漆の一つの素材をとことん追求しているというところが表れて、非常に見応えがあります。
それから、金賞を取った朱の大きな器です(包みこむ器〜赤ちゃんの湯船またはベッド〜・戸田蓉子)。この作品も何げないようですけれども、女性の作家の方
で、女性の直感の働きで生まれた、初々しい温かみのある、いい存在感を表している作品だと思います。その用途が、器という広い意味ではそういう概念ですが、産湯を使わせる赤ちゃんのお風呂というテーマです。
日本にはもともと、漆塗りのたらいで産湯を使うというのが伝統として行われてきておりました。現在は病院で産みますから、そういうことはないのですが、お湯の
中に漆から消毒機能が出て、赤ちゃんの皮膚を清浄にするという意味合いで、昔から長い間継承されてきた文化なのです。そういうところを、現代社会の時点で
見直そうという、漆の原点的な表現に近いものだということで、非常に意味のある作品だなと私は思います。
それから、商品開発特別賞というのは、産業振興にかかわる作品です(服装(陣羽織、半コート、スカート)・志奈幹雄)。これも、提案性としては非常に面
白い提案ではないかと思います。これについては実際に着用したり使ったりする面からいろいろな問題点も指摘されたところです。
私の感想を先に少し述べさせてもらいましたが、これからそれぞれ審査員の方にマイクを譲ります。それでは山村さん、よろしくお願いします。
[山村]おはようございます。今回初めて、この国際漆コンペの審査員を務めさせていただきました。本当
に手のひらに乗る小さなアクセサリーから、もう規定スケールいっぱいの大きさの建築部品だとか、あるいはモニュメントまで、本当に幅の広い作品がたくさん応募されていて驚きました。
今回、特に私が感じたことは、今までになかった商品開発特別賞という賞が、大賞と並んで大きな位置付けをされて新しく今回から登場したことです。この新
しい商品開発特別賞の意味をお聞きしたら、特に商品開発や産業、あるいはこれからの事業に大きく関わりのある力のあるものを選ぶために設けられたという話
を聞きまして、非常に素晴らしいことだと思います。
私たちがいろいろなコンペで審査をすると、「おや?」と思うものが選ばれたり、あるいは意外なものが落ちてしまったりということがよくあるわけですが、
今回特にこの商品開発特別賞はそういう意味で石川県だけではなくて、日本全国あるいは世界に向けて漆の可能性というものを、新たに挑戦して啓発していくと
いう非常に大きな意味を持っていると思います。特別賞というのは最後の方に付いてくるのが常なのですが、今回はまさしく大賞の次にこの賞がどんと来るという
ことで、このコンペの意味が大きく変わっていくのではないかと私は感じました。
今、大賞については大西先生からお話がありまして、私が思うところをまさしく言っていただきました。石器時代に石のやじりを矢につがえて獣を捕ったり、あるいは黒曜石を割ったその鋭さを利用してナイフにし
たりというような時代に、漆がさかのぼるイメージがします。特にこの作品は、黒曜石や片麻岩のカットした鋭さをそのまま漆のテーマにしています。私としては、これはオブジェということだけではなくて、一つの美しい器として素晴らしい力を持っているのではないかと思います。
金賞は、朱の漆の赤ちゃんのバスタブです。少子化だとかキッズデザインということが社会でも大きな問題になっている今の時代です。果たして漆がそのよう
な子供たちのために何ができるかということで、作品の中には赤ちゃんのおもちゃや、キッズ対象の商品が見受けられました。この作品は非常におおらかなゆっ
たりした形で、生まれて初めてお湯に浸かる、羊水から初めて社会に出て、そして外の温かいお湯に包まれて体を洗うときの出会いの場として、非常に優しくて
意味があるものではないかと思います。形も非常に優雅で、優しい形に作り上げられております。
最後に、三つ目の先ほどから述べさせていただいている商品開発特別賞です。今まで随分と、漆がテキスタイルにどう生かせるかという挑戦がされてきたわけ
ですが、ここで初めてアパレルの商品化としての、漆の可能性を非常にリアルな形で見せていただいた感じがします。洋装、それから和装のための陣羽織だとか、
その商品アイテムもなかなかよく工夫されていて、裃のようにまさしくきちんと着て襟を正すというものもありますし、普通の柔らかい素材と漆を使ったやや硬
い部分をうまくデザインに生かして、洋服のジャケットに利用していくとか、まさしく現代のアパレルの中に漆が生かされていくという、一つの大きなきっかけ
になるのではないかと思います。小さなものは随分今までもたくさんあるのですが、実際にわれわれがこれから着たり、生活を楽しんだりするときに、漆の可能
性が本当に身近に、皮膚に近いところに迫ってきたということで、まさしく商品開発特別賞という企画の大きな意味を果たしているのではないかと思いました。
[コプリン] 山村先生が今、ちょうどおっしゃったことに対してコメントしたいのです。そうすると、もっとこの座談会も生き生きしてくるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
[大西] はい。一応順番にお話を進めていきたいと思いますが、途中でそういうご意見がありましたときは、どうぞそういうふうにアピールしてください。モニカさん、どうぞ。
[コプリン]
今、特別賞を受けた作品というのがとても良い例だと思うのですけれども、こういう賞を決めていくときには、審査員たちは非常にたくさんの議論
をします。もちろん賛成の人もあれば反対の人もある。その中で、では賞をどこにあげようかという解決に集約していったり、結び付いていかなければ審査会というのは進まないわけです。
それでもやはり問題は残ります。例えば、今の洋服の作品は、日常生活で身に着けるものですよね。新しい提案というのは私も賛成なのですが、身に着けるも
のである以上、私たちも着てみました。そうすると非常に硬い感じがして、漆の塗ってあるところが動くとごそごそ音がする。身に着けるものなのに、身に対し
て決して優しくない。それから、これのクリーニングはどうするのかとか、実際に日常的に使うときにはアートではないわけですから、きちんと実際的に私た
ちが着こなせるようなものである必要があると思います。ですから、オブジェとしては非常に良い考え方だし、良い提案だとは思うのですけれども、例えば防水
性の生かせるようなところで着ていただくということも可能でしょうけれども、まだまだこれから開発が必要で、まだ開発ができていないという点では、実は私はこれを特別賞に推すのには反対をしていました。
[山村] 確かに審査会ではこのアパレル作品の特別賞について随分議論がありました。評価のポイントとしては、まず商品としての可能性といいますか、新しい 誘発点ということがあります。また漆というのは使っているうちに生活になじんで順応していって、今できたものがずっとそのままあるのではないということが あります。例えば革のコートでも、買ったときは硬くても着ているうちにだんだん体になじんで、その人と服が皮膚のごとく一体化をしていくという意味で、今 の出された状態がそのまま永久的に硬直な状態であるものではないと思うのです。中には、裃などこのジャケットよりももっと硬かったものもありますが、今後、 この作品を実用的なものにするにはもう少し改良が必要です。例えば印伝のように、革に漆をうまくドット状で付けていくとか、いろいろな工夫要素はたくさん あると思うのですが、非常に議論が分かれた部分でもあります。しかし私は、特にこれを強く推させていただきました。
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