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開催概要  Prospectus

質疑応答

[質問者4] 先ほど幾つかの議論の中にお話が出ていましたが、漆の消費が非常に伸び悩むという部分がありました。私はその販売に携わっていたのですが、今 の消費者なり一般の人たちは、漆の原点みたいなものが分からないというか、知られていないのではないかと思います。先ほどからもお話に出ていましたように、 イメージ的に高価なものであるとか、扱いが難しいとかいうような部分で、門を閉ざしていた部分がやはりあったと思います。
私も前先生の作品をはじめとしていろいろな漆の作品を販売させていただきましたが、お値段も大事な要素の一つなのですが、こんな使い方があるのかとか、 耐久性などが発見されて、本当に売れるものがあるのです。今は食の問題が特に騒がれていますが、漆の器など単体だけではなく、先ほどお菓子を盛ったらとか、 お料理をとかいうお話が出ましたが、まさしく今、食の問題にしても漆の問題にしても、その原点的なものがいろいろな機関から消費者に伝わるような、その広 がりというものをとらえられるような機会をつくりだしていただければ、原点はみんな共通すると思います。
もう一つ、せっかくドイツと韓国の先生がお見えになっています。漆というのはジャパンという名称が付いています。私は今後、仕事として販路開拓をしてい くのですが、漆の国際的な広がりというものが、アジアだけではなくヨーロッパやアメリカなどにおいて、どういう広がりを持っている状況なのか、その辺もお聞かせいただければと思います。

[大西] 美術工芸品を含めた工芸品を扱っていらっしゃる方ということで、非常に作る立場、売る立場、使う人という三つの連携というものが重要であること は、もう申すまでもないことです。われわれは生み出す側として意見を深めていこうとしているので、売る方もぜひ、漆というのが何なのか考えていただきた いと思います。しかし、何なのかと聞かれたときに、ヨーロッパに行って何も答えられない。これでは、コプリンさんが指摘されるように、宝の持ち腐れになっ てしまうわけです。ですからこれは大いに勉強しなければいけないですね。
だから、こういうシンポジウムやディスカッションというのは、頻繁にやる必要があるのです。具体的なものを通しながら。年に1回やっていたって、すぐ忘れ てしまうのです。だから、繰り返し頭を整理して、理解力とともにその意味を深めていく。何がいいのか、きれいさがいいのか、そうではなくて漆の素材の持つ 中にある力が美しく見せるのか、そういうアイデンティティを活性化しないと美しさが見えてこないのか、そういう問題がいっぱいあると思います。ここで全部、 今おっしゃったことにお答えすることはできないと思いますが、大変重要なことをご提案をいただいたと思います。
私も今、ヨーロッパのコペンハーゲンで展覧会を3ヵ月間続けています。非常に関心が高いですし、見せ方も大事です。ただきれいなものをきれいに見えるよう に並べただけでは、向こうの人は「ああ、そうか」「ああ、きれいね」と見るだけで、これがどのように日本人の暮らしの中で生かされているのかとか、どういうと ころを楽しんでいるのかということを伝える技術、方法がないと、ただ言葉だけで言っても駄目だし、その空気を伝えなければいけない。それは必ず伝わります。今、コプリンさんがそれをおっしゃっていますから。

[質問者4] 例えば先ほど、こちらの赤い作品(包みこむ器)についてご質問されていて、私も漆は分かりますが、何でできているのかと思っていたのです。展示 で見るときは、これはフォルムが素晴らしいなとか漆の色がすてきだなと思って、その次の段階として、これは本当に使えるのかなと思うわけです。まだ試作品で、 商品化の段階まで来ていないのかもしれませんが、これを見て使ってみたいという人は絶対に出てくると思うのです。そのときに、展示の仕方であるとか、コメン トといったものが非常に必要ではないかと思います。こちらのお洋服もそうなのです。今はたまたまこういう段階ですが、もう少しすてきに飾ることによって、広がりが出てくるのではないかと思いますね。

[小松] 今、この国際コンペが、外国とのかかわりがどういう状況にあるのかというご質問もあったと思うのですが、この国際コンペは、前回の審査員もフラン スの方をお招きしています。そこの方が所属しているフランスの漆協会というのがあって、そこが20人ちょっといらっしゃるそうです。そういう方がここの コンペティションにも何回かチャレンジしておられて、そういう人たちの中には、向こうの企業とコンセンサスも持っている方もいらっしゃいます。

[栄久庵] 今度の審査会で、私自身少し分かったのですが、欧米と日本で漆の見方は全然違うのです。だからこそ「日本の漆とは」ということが言い切れるのでは ないか。つまり似たようなものだとなかなか言いにくいのですが、やはり欧米は漆を画材に扱っているから、絵画とか彫刻というような扱い方で、そういうのはどち らかといえば日本にはあまりない。日本はむしろ道具というものに漆を利用して守るとか、長持ちさせる。
国際コンペの良さというのは、そういういろいろなことがあるからこそ、ではドイツの漆はどうか、またフランスの漆はどうか、アメリカの漆はどうかという ことが言える。そういう中にあって、そこで初めて日本の漆というものがこうだということが言い得るようになったのです。それで漆が世界に広がったのだと思 うのですが、ここでいろいろ語られるように、全く基本的に違うのです。そういうところがあるからこそ、こういう会の面白味があると思う。
ですから、日本の漆を海外に売る場合は、なぜそれがいいのかということを訴えないと、似たようなもの になって、分からなくなってしまう。ここではほとんどが日本の方の作品ですが、どちらかというと静寂感があって求心力が強い。あえて言葉で言えば「一塗 り、静寂の心を起こす。二塗り、さらに静寂の心を残す。」というようなものかもしれないし、鋳金、彫金、鍛金、漆塗り、箔ということをまとめてみると、日本 の諸芸というのは一道に尽きるといった表現になるのではないか。ところが一道が何であるかを考えるのは、これからの難しいところです。
欧米諸国と日本の漆は基本的に違うということは、お心にあった方がいい。同じものは決してありません。その代わり逆に、欧米の状態をやはり勉強しなければ 分かりませんね。非常に変わった世界ですから、そういう点で国際コンペの意味合いとしては、各国諸国の有り様が分かるというところが、こういう会をする意 味があるというものです。そしてそれをご覧になられて、売る立場から見ればとても難しいでしょうが、とても大事なところだと思います。

[大西] 日本人が意外と知らないのです。最初に僕は申しましたね。漆とは何かと言われたときに、答えられる用意がないでしょう。欧米の人というのは、コプリンさ んをはじめそういう知識のある方、あるいは世界の文化の歴史を知っている方は非常に多いのです。だから、日本人よりも知っています。漆というのは江戸時代に どういうものがあって、桃山時代にどういう武将がいて、どういう蒔絵が発達したとか、根来というのは仏教にかかわったものだとか、みんな知っているのですよ。だ から日本人が一番知らない。これはあえて僕は強く申し上げます。だから勉強しないと駄目です。

[コプリン] 最初の質問に戻りたいのですが、先ほど、日本の国内でも漆のものを売っていくのはとても難しい時代になってしまったというようなお話があったと 思います。お値段も高いというようなお話もありましたが、問題は値段ではないと思います。なぜかというと、日本の若いお嬢さん方はもう本当に何十万円も出 してヨーロッパのブランドもののバッグを買いあさるというようなことがありますよね。ですから、何が問題かというと、日本の漆のものが高質なイメージとい うものを失ってしまったということに、問題があるのではないでしょうか。ですからもう一度価値というものを再発見しないといけないと思います。そのときに は、一つ一つのものの商品なり作品なりが、やはり良いセンスのものであるべきだと思います。「テイスト」とおっしゃっているのは、私たちが日本語で言う ところのセンスの良いものでなくてはいけません。
今回、コンペにさまざまな作品が寄せられたのですが、残念ながらその中に「どうしてこんなセンスのものが来たかな。」と思われるものも、正直言って入ってい ました。それはとても残念なことです。私の美術館では漆をずっと扱っていますが、ロシアのもの、ビルマのもの、日本のものをずっと置いています。それは売るた めに置いています。その中で、どの漆のものが一番高いかというと、ロシアのものが一番お値段は高いです。でも一番売れるのは日本の商品で、非常にシンプルで 美しいものです。ですから美しいということ、それからとてもセンスがいいということ、シンプルでエレガントであるということ、そして表面がとてもきれいな塗りになっているということが大事だと思います。

[大西] だんだんといいディスカッションになってきたように思いますが、時間がもう20分ほどオーバーさせてもらいました。非常に盛り上がったところですが、 将来に向けて可能性を少しお感じいただいたのではないかと思います。この展覧会を通した提案がいろいろな意味で、漆の業界の方々、漆を愛好される方、商品 を扱われる方、それぞれの方々がこの展覧会を通じて漆をぜひ深く理解していただきたい。
漆は面白いのです。決して過去の殿様のたしなみではないのです。本当に人間の根本的なアイデンティティの話をされましたが、このアジアの風土の中でわ れわれは生きてきたわけですから、それと漆というのは文化の根幹にかかわってきているのです。これをもう一度再認識しないと駄目だと思います。本当の意味 で力が湧いてきません。ぜひ、そこに考える視点、焦点を当てながら、ぜひこの展覧会に期待していただき、 また積極的に参加していただきたいと願っております。
今日は、時間も少しオーバーしましたが、いろいろお話しができてありがとうございました。これをもって終わらせていただきます。

閉会

写真 [棒田] 先生方、本日は大変貴重な意見をありがとうございました。「国際漆展・石川2009」は来年1月21日〜1月26日までの6日間、金沢市内のめいてつエムザ8階 催事場で開催致します。「国際漆展・石川2009」の入賞・入選作品約82点と、併催展として、国内の主要漆器産地約12ヵ所の新商品開発や、用途開発の動向を展 示紹介することとしております。また、来年2月26日〜3月22日まで、石川県輪島市漆芸美術館で巡回展を開催します。多数の方のご来場をご期待致しております。
それでは、「国際漆展・石川2009」特別座談会を閉会致します。最後に、先生方にもう一度盛大な拍手をお願いしたいと思います(拍手)。どうもありがとうございました。

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