質疑応答
[大西] さてこれから期待の、皆さまとのディスカッションなのです。先ほどもお願いしましたように、これをぜひ活発にすることが、それこそ漆の未来を何ら かの形でつかむことになるのではないかと期待しています。どんなことでもいいですから、われわれは拒否しませんし、それに対して一緒になって考えてみたい と思います。では、何か意見を持っていらっしゃる方は手を挙げてみてください。あまり格好いいことを考えなくて結構です。なぜ漆なのかとか。皆さん自問自 答しているだろうと思うのです。なぜこんなことをしているのだろうとか、長い伝統がありますから、知らず知らずのうちに、自分の仕事というのがそんなふう になっていってしまっているふうに、だからそういうところを、なぜというふうに疑問を自分自身に投げかけてみてください。
[質問者1] 私は建築の設計のほうなので、今日のお話に関しては門外漢のような感じなのですが、今いろいろな先生方のお話をお聞きして、作品も見ていまして、漆というものは何にでもくっつくものなのですか。
[大西] そうですね。何でも塗れないものはないのです。地球上に存在する物体で塗れないものはありません。
[質問者1] 例えばアルミのプレートに、部分的にそれを塗るのでもいいのでしょうか。
[大西] ええ。ものすごく仲がいいです。
[質問者1] ああ、そうですか。このベビーバスは、素材は何なのですか。
[大西] 麻布と漆で固めていったものです。
[質問者1] 麻の袋のようなものを。
[大西] それに漆を染み込ませて、何枚も張り重ねていって強度を持たせてあるのです。奈良時代にできた仏像をご存じでしょう。有名なのは阿修羅ですね。あ れは皆、乾漆です。麻布と漆だけで、中は空洞ですから。
[質問者1] 私は、これは木でうまいこと作ったのかなと思ったのですが、そうですか。では、そちらの黒のものは。
[大西] これも乾漆です。一番の母体は、スタイロフォームのような発泡体だと思います。それを削り出して、あるフォルムができたところに、今度は漆で麻 布を張っていって、立体化するわけです。そして中のスタイロフォームは空気みたいなもので、存在の意義をなくしてしまうのです。外の漆だけの強度でもっ て自立するわけです。だから、中身は関係ないのです。最初の寄りすがる素材として、それを使っているわけです。
[質問者1] それから、商品開発特別賞は見た途端、漆の感覚については先ほどお話にもありましたが、非常にごわごわしているはずなので、こんな作品になるの かなと思って、非常に疑問が最初からあるのですが、着られないことはないのですか。
[大西] 全く問題なく着られます。ただ着たときの感じとして、普通の布の柔らかさとは違って、漆が入っていますから、ちょっとごわごわとする感じとか。
[質問者1] 通気性はどうなのですか。
[大西] 通気性は布がきちんと生きていますから、別に布の目はつぶれていないのです。
[質問者1] 布に漆を塗ってあるという感じなのですか。
[大西] そう、塗っているのですね。完全に芯まで染み込んでいないですから。
[質問者1] そうなのですか。あまり素人っぽい話ですみません。よく分かりました。
[大西] そういう根本的な質問というのは、案外理解の上で大切ですから。
[質問者1] ありがとうございました。
[質問者2]
私は、この審査特別賞をいただいた志奈です。今の皆さんのお話を聞いていて、2009年の漆の新しい広がり、漆がどう広がっていくかという可能性の
話が、どうしても美の意識に高まってしまって、もともとの生活での実用性、機能性というものから外れてきているような気がしたのです。今、日本ではどこで
もそうですが、石川県も漆器や九谷焼などの伝統工芸が非常に衰退して、商品としてはますます悪くなってきています。ものは良くても売れていかない。若い女
性は特に、面倒くさいから使いたくないということがはっきりしているわけですね。
このままでいったら、ある時期が来たら商品としてはなくなっていく可能性が非常に大きいです。私は今、石川県でいろいろな伝統工芸がなくなっていくことを
危惧しているのです。そんな中で、私どもとしては商品として、生地や服飾などの分野でいろいろなことでやっています。今回の作品は最初の段階のものでした
から非常に硬くて、ちょっとごわついているけれども、今は柔らかくなってきているのです。商品も洗濯、摩耗は、ここの工業試験場で全部試験が終わって、成績
表では5の数字が出ています。だから、生産する可能性は大きいけれども、大量生産はやらないという考えでいます。
ただ、これから生活の中で若い人たちにやはり使ってもらいたい、振り向いてもらいたいというのが一番大事なところではないかなと思ってやっているのです。
私もここへ来て、この賞をいただいたことにびっくりしているのですが、いろいろな意見もあるし、これからの面白い展開があれば、素晴らしいなと思っていま
す。そういうことを意見として言わせてもらえればと思います。
[大西]
おめでとうございます。特別賞で50万が入りましたから、新たな開発に挑戦していただきたいと思います。今、伝統的産業というものが非常に難しい状
況に立ち至りました。それは工業生産だとか現代社会のいろいろな仕組みの新たな現象の一つです。だから、この問題にかかわらず、われわれの生活にじわじわと
そういう問題が迫ってきていますが、やはり魅力がないというのが非常に大きな課題なのですね。大事なことなのです。それは今直面している、明日のご飯が食べられるかという問題ですよね。
ですから、本当はもっと前にそういうことを予測しなければいけなかったのです。伝統産業、輪島でも何でも、直面してから考えているわけです。今から10年
前に、そういうことを予測できないというのは、やはり考え方が足りないということです。そういう社会に変化していくということを、早いところキャッチしながら対応していかなくてはいけません。
今から20〜30年前は、輪島塗なども非常に売れていましたよね。何十億と売れていて、金をたくさん付けるほどよく売れたのです。そういう感覚というのは、
既に問題をはらんでいますよね。それに気が付かないというのは、人間の弱いところなのですよね。
[コプリン] 大西先生の意見に賛成です。私のような西洋人の目から見ると、今皆さんクラフトの危機とか、伝統工芸の危機とおっしゃいますが、私はそうは思い ません。これはクラフトの危機ではなく、日本のアイデンティティの危機だと思います。とても美しい日本語、それから日本人がこれまでずっと世代から世代へ 受け継いできた伝統、本当に素晴らしいものを忘れてしまって、欧米のライフスタイルに惹かれて大きく変えてしまったことが、日本のアイデンティティを失う ことにつながってしまっている。これはとても残念でなりません。
[大西]
今のご意見は大変重要な指摘をされていると思います。アイデンティティというは、やはりわれわれの精神的なバックグラウンドであるわけですから、
今売れなくなったから困るという考え方がいけないのです。だからこそ、われわれはアーティスティックな世界から新しい提案をしようとして、芸術的な作品も
重要視しているわけです。こういうものは、やはり精神性があってこそ生まれてくるものなのです。ただ、商品というのはやはりその時代の流行とかそういうも
のに非常に左右されます。日本の場合は、やはり日本の伝統文化の良さというものを、本当に愛していない。
伝統という言葉は非常に使うけれども、本当に愛しているのか。その愛し方が、結局は希薄なわけです。そのために生活の中からいまや魅力を失っていこうとしている。こういう現象です。
審査員の先生方、どなたかこの問題について一言おっしゃる方はいらっしゃいますか。今の問題点は大変重要ですから、皆さん方もそういうことに関連しても結構ですから、ご意見をどうぞ。
[質問者3]
今の問題とは違うかもしれないのですが、私は栄久庵先生の賞をいただきました御前智子と申し
ます。今、この場に来て、本当にこの賞をいただいたことを知りまして、ありがとうございます。
それで、自分の作品の説明をさせていただきたいと思います。先ほど先生が銀の素地とおっしゃられたのですが、私は作品を作る上で、金属の冷たさと漆の温
かさを備えた作品を作りたいと思いました。全部銀でしますと価格がすごく上がるので、銀と黒呂漆の接合をしています。普通香炉だったら正面があると思うの
ですが、四季相関にして、後ろが梅になっているのですけれども、お正月には梅の花を飾ってほしい。おひなさまのころには桜を飾ってほしい。こどもの日には
菖蒲を飾ってほしい、萩は秋に飾ってほしい、夏は百合の花を飾ってほしいというか、いろいろな面で楽しみたいという思いで作りました。
加賀蒔絵と加賀象嵌というか石川の伝統工芸を組み合わせたものを作りたいと思って、それに金沢箔でちょっと雰囲気を出したいと思いました。今回、加賀
象嵌まではいかなかったのですけれども、金属素地は彫金でやってみました。技術的には本当に未熟なのですが、金属と漆に対して何か挑戦していきたいと思い、この作品を作らせていただきました。
[栄久庵] 一言言わせていただくと、香りの出口がちょっと痛ましいのです。もう少し、香りというのはほんのりしなければいけないのですが、香りの出口で 変に傷つけてしまうような感じがするので、あそこをもう一考されるとよろしいのではないかと思います。
[質問者3] はい。自分でもほやの部分の形をもうちょっと工夫したらいいかなと思ったのですけれども。
[栄久庵] 大体すべていいのでしょうが、1カ所変だとやはりそこから作品に傷が付くのです。心の傷が付いてしまって、そこから嫌いになってしまう恐れがあ るのです。だからそういう面で、手のひらに入るほど小さければ小さいほど綿密な観察力が必要です。この場合は、最初から香りの出る部分が一番大事なところ ですよね。そこを工夫すれば、いい作品になりますよ。僕はどちらかというと、漆の作製者よりも消費者の方ですから。消費者から見ると、そうです。
[質問者3] ありがとうございます。
[大西] ありがとうございます。
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