審査員特別賞受賞作品の講評
[大西] ありがとうございます。これから審査員特別賞としてご推薦いただいた作品について、一言ずつお願いしたいと思います。
[山村] 私が推薦をしたのは、ジュエリーボードという、高山から運び込まれたものなのですが、これは非常に大きな家具調の宝石入れで、とかくものづくりを すると「すべての人に」という言葉が前に出てしまうのですが、非常にジュエリーをたくさん持って、もうしまい所がなくなってくるという人たちのために、多 段式の隠し収納ボックスも付いた春慶塗のジュエリーボックスです。非常に特化したものの考え方ということで、家具や建材などたくさん実用的なものも提案さ れてきたのですが、その中の非常に大型の完成度の高い調度品ということでお薦めしました。
[前] 私が選んだ審査員特別賞は、輪島の大橋さんという方の作品で、本職は呂色屋さんなのです。つやを上げる仕事をやっている方です。今回の作品の大きさ は、長さ20センチ、幅10センチ、高さが2センチくらいです。その上下の板の間にガラスを張ってあって、サンドイッチになっているわけです。そのガラスがあ ると、光で透けて非常に美しく見える、二つの素材をうまく生かした作品です。それで、このプレートの片面側は黒の呂色仕上げで、非常に美しくすきっと塗 られております。もう一方は乾漆粉塗りという、漆の粉をまいて平に研ぎ出してあるわけです。それも黒と朱などいろいろ色を変えてあります。作品名は風のイ メージ、ガラスのすきっとした空気感が見られて、素晴らしい作品だと思います。
[栄久庵]
私が選んだのは香合わせです。選んだ理由は、私が香の世界に非常に疎いので、どうやら嗅覚の世界は自分の一生からなくなるのではないかと思って
おりましたところ、たまたま今度の出品者の中で、香合わせが出てきたのです。台が銀で、それに蒔絵を施してある非常にぜいたくなものです。そういうので、
この展示会に出品する種類のものではないとは思いながらも、非常に個人的に、香りの世界で自分の人格が多少でも変わればということで選びました。
意外と現代人は嗅覚が弱くなっているのではないかと、私などは特に弱いので、せっかく築き上げた香道というものをもう一度再現しながら、香の世界の良さ
を一つの器から発している、そこの文化形態というのも考えてみれば、既にもう落ちぶれていったものだけれども、もう一回それは人間関係また人自身にも非常にプラスになるのではないかなと思います。
蒔絵も金属の上のものですから、ちょっと厚みがあって、大きさは十数センチの非常に小さいものですが、重みもあって、それを自分のものとして持ってい
たとしたら、さぞかし気持ちがいいだろうと思いました。やはり漆の中では売ったり買ったり、作ったりするという世界もありましょうが、しかし自分のものに
それを持つことが、一つの人生のある意味の生きがいになるというのも、大事なことではないかなと。これも考えてみれば商品開発、あえて言えば芸術。でもこ
の場合はそこまではいかなくても、古典的な仕事ですけれども、非常に所有感を満足させるというものの一つではないかなと思います。
[小松] 私が選んだ作品は、出品者の中で一番小さいものですが、ブローチです。表面はガラスで凸的な湾曲を少し感じるのです。その中にちょっと空間を置い て、蒔絵であったり箔を押してあったり、あるいはいろいろな技術を取り入れて作ったものです。これもアート性のある用途開発という面でも、値段は少し高 いかもしれませんが、なかなか変わった一つのジュエリーの在り方というか、ブローチの提案であったと思っております。
[権] 私が選んだその作品の作家は、あちこちでポップダンスをやるのです。そのときの衣装の一部です。これは頭の上に被せる、冠の形をしております。形も 本当に広げた形を持っているし、実際のものを見ると、いろいろな漆色を使って、いろいろな解釈ができると思います。本当に面白い作品ではないかと思いました。
[コプリン] 私がこの作品を好きだと思ったのは、非常に澄み切った感じ、しかも同時にエレガントなフォ ルムに惹かれたからです。赤と黒の2色の美しいコントラストにも惹かれました。質の高い作品だと思います。漆の質の高さをうまく生かした作品だと思います。
[大西]
最後に私の推薦したものが、ドアノブで、手でつかんでドアを開け閉めするときに用いるものです。
先ほど言った原初の漆とは相反する、非常にきれいに蒔絵が施されているものです。こういう生かし方も漆の技術を前面に出すというか、蒔絵の装飾効果を出す
一例だと思います。これがだんだん使われてきてすり減ってきたら、蒔絵が少し取れるとか、あるいは角が
すれてきたら面白いなと期待しています。
今はぴかぴかに完成していますから、手で触るのも怖くなりそうな感じがするのですが、蒔絵が減ってきたときに何か美しさが出るかということも問題として
あるわけです。だから人間の手と漆が一体化しながら新たな世界が生まれてくるということも取り込まないと、漆の未来がないと私は思うのです。そういう願いを込めて私はこれを推薦しました。
さて、いろいろ意見が出てだんだん面白くなってきました。コプリンさんの見方というのも、われわれ漆の中にどっぷり浸かっている人間と違って、非常に広
い視野で、客観的な見方をされているところがあるので、非常にすがすがしい感じがします。皆さんも恐らくそうお感じになったことだろうと思います。われわ
れが当たり前に見過ごしていたところに、今後の精神性を加味して、言葉で示していただき、大変良かったと思います。
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